スポーツを楽しむ工夫
プラスチック製のバットを持ち、しゃがんで構えます。目を必死にこらして転がってくる小さな球めがけてバットを思い切り振りました。これが、私が目が見えにくかった小学生のころ、友達と遊んだゴロ野球です。見えていたのは左目だけだったので、空中を飛んでくる球は全く打てなかったんです。
小学校の体育の授業で苦手だったのは、球技とハードル走でした。すごい速さで飛んでくるドッジボールを、上手にキャッチする同級生がうらやましかったです。ハードルは、近づかないと見えませんでした。注意して走って倒さずに跳び越えるのがやっとでした。小学校4年生の時に入ったクラブ活動は、器械体操でした。幼稚園の時から跳び箱やマット運動が好きだったんです。
人気のトランポリン
目が見えなかったり、見えにくかったりする子どもたちが通う盲学校にも、体育の授業はあります。私が取材でお世話になった京都にある盲学校の小学生の体育は、ラジオ体操から始まります。手に持ったラケットで転がる球を打ち合う卓球「サウンドテーブルテニス」や、先生と一緒に走る「伴走」などをしています。夏はもちろん水泳です。
休み時間になると、教室から中庭に出て元気に遊ぶ子どももいます。大人気は、ブランコと大きなトランポリン=写真<下>(した)=だそうです。6月には、スポーツ大会がありました。ソフトボール投げや50メートル走にチャレンジしました。先生が離れた所から木琴や鉄琴で使うバチでフライパンをたたき、その音を聞いて投げたり走ったりする方向を確かめます。
全国大会だってありますよ。今年の8月24日から3(みっ)日間、全国の盲学校の高校生たちが日本一を目指すスポーツ大会が開かれます。「盲学校フロアバレーボール大会」です。今回の舞台は山口県で、10チームが出場します。
フロアバレーボール=写真<上>(うえ)=は、1チーム6人のプレーヤーが、コートの真ん中にあるネットを挟んで向き合います。ボールをこぶしで打ち合ってネットの下を転がして対戦します。ボールが相手チームの選手の体に当たったり、腕で止められたりすると「ボン!」とものすごい音がするんですよ。
見えない・見えにくい人たちが楽しむスポーツ。ぜひ近くで見たり一緒にプレーしたりしてみてください。きっとたくさんの発見と魅力に出合えると思います。
◆コラム
パラスポーツ
昨年8月には、障害者の世界的なスポーツ大会「パラリンピック」が、東京で開かれました。目が見えない、もしくは見えにくい選手たちは、水泳や陸上、柔道、5人制サッカー、ゴールボールなどに出場しました。ゴールボールは、選手全員が目隠しをして、転がるボールや選手の動きをつかむので「静寂の格闘技」と呼ばれています。
佐木理人
1973年生まれ、大阪府出身。生まれた時から目が見えにくく、中学生の時にほとんど見えなくなる。神戸市外国語大学大学院外国語学研究科(英語学専攻)を修了。2005年に毎日新聞社に入社。趣味は食べることとアニメ観賞。
「あなたらしく」では、さまざまな人を理解し尊重するとともに、自分自身も大切にできるような視点を伝えます。タイトルは、ダウン症のある鈴木俊太朗さんが描きました。