「場面緘黙」を聞いたことがありますか。「場面」とは「場所や人によっては」という意味です。「緘黙」とは「話せない」という意味です。「話さない」ではなく「話せない」です。なので、特定の場面で話せない状態が続くのが場面緘黙です。本人は、なぜ話せないのか分かりません。場面緘黙の仕組みや対応、治療について、専門の医師に説明してもらいました。2週に分けてお伝えします。
場面緘黙に詳しい山口県下関市の小児科医、金原洋治さん(72)=写真=によると、最初に症状が出るのは、3~4歳ころが最も多いそうです。「家庭では普通に話しているので家族も気付かず、相談するのが遅れることも多いです」。また行事やグループ学習、休み時間の過ごし方で困っていることも多いそうです。発生率は0.2~0.8%といわれ、学校に1人いるかいないかぐらいです。場面緘黙から改善した大人は、「のどが閉まったようになる」「なぜかわからないけど声が出なくなる」などと話します。自分は場面緘黙だったと大人になってから知る人もいます。
過保護のせいではない
金原さんによると、生まれつき家族以外と話すのが苦手な子に起こりやすいようです。両親のどちらかにそのような性質があることが多いそうです。保育園や幼稚園、小学校に入って環境が変わると、「話さなくてはいけない」と思うと不安や緊張が高まり、そのまま黙っていると不安が静まるという経験をします。自分を守るために心と体が自然に反応するのです。脳の中で不安や恐怖をつかさどる「扁桃体」という部分が、過敏に反応しているとも言われます。過保護など育て方が原因で起こると誤解されがちですが、そうではありません。また虐待やいじめが原因になることも少ないそうです。
話せなくなる「場面」は人それぞれですが、ほとんどは学校や幼稚園に関係する場面です。学校では全く話せない∇授業中は話せないが部活中は話せる∇仲のいい友達となら話せる∇音読だけならできる――などです。
場面緘黙の症状がある児童に対して、してはいけないことを教えてもらいました。「話すのを強制したり話さないことをからかったりするのはやめてください。また本人は『話しかけてほしい』と思っているので話しかけてあげてください」
学校での様子を聞いて「場面緘黙かな?」と思ったら、家族は下の本やサイトを見てみましょう。思い当たったら次のステップです。スクールカウンセラーなど周囲の力を借りてみましょう。金原さんは「適切な治療を早く始めれば早く治ることが多く、症状が続く場合でも傷つく体験を防げます」と話します。
【塩崎崇】
参考になる本とおすすめサイト
◆家庭向けの本
なっちゃんの声~学校で話せない子どもたちの理解のために~(学苑社)∇どうして声が出ないの?~マンガでわかる場面緘黙~(学苑社)
◆教員向けの本
イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド(合同出版)
◆おすすめサイト
かんもくネット http://kanmoku.org
「あなたらしく」では、さまざまな人を理解し尊重するとともに、自分自身も大切にできるような視点を伝えます。タイトルは、ダウン症のある鈴木俊太朗さんが描きました。