アフリカ大陸で最も高い山の名前を知っていますか。アフリカ東部のタンザニアにあるキリマンジャロです。地元の言葉で「白く輝く山」の意味があるとされ、高さは5895メートル。赤道近くの熱帯地域にありながら、山の頂上には降り積もった雪が長い年月をかけて氷のかたまりとなった氷河を見ることができます。
「アフリカの屋根」と呼ばれるこの山の景観は、残念ながら皆さんが大人になったころには変わっているかもしれません。地球温暖化によって、今後数十年のうちに氷河がなくなると予測されているのです。キリマンジャロだけではありません。アメリカのイエローストン国立公園など、各地の世界遺産にある氷河のおよそ3分の1が、2050年までに消えてしまう可能性が高いとするリポートが今月発表されました。
調査した国連教育科学文化機関(ユネスコ)などによれば、氷河のある世界遺産は50カ所で地球全体の氷河のおよそ10%にあたるそうです。これらの場所では00年ごろから氷河が解けてなくなるスピードが急に加速しており、その量は年580億トンと見積もられています。日本で1年間に使われる生活用水と工業用水の合計の2倍以上に相当する量です。
景観が変わるだけではありません。氷河が減ると、地域の水資源や農業、水力発電などに影響が及ぶとみられています。なだれや地滑りなどの災害が増えることも心配され、氷河が目当ての観光客が減ることで地元の経済にも大きなマイナスになるでしょう。リポートは、温暖化による気温の上昇を1・5度に抑えることができれば、世界遺産の氷河の3分の2をかろうじて残すことができると強調しました。そのためには、今後10年の取り組みが勝負となります。
文 八田浩輔さん
毎日新聞外信部専門記者。気候変動や環境問題などが取材テーマ。
2016年春から20年夏までブリュッセル支局に勤め、ヨーロッパの政治や文化を取材。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんにもインタビューした。
2050年までに氷河がなくなると予測される主な世界遺産
<アフリカ>
・キリマンジャロ(タンザニア)、ケニア山(ケニア)の両国立公園など、アフリカの全ての世界遺産
<ヨーロッパ>
・ピレネー山脈・ペルデュ山(フランス、スペイン)
・ドロミテ(イタリア)
<北アメリカ>
・イエローストン国立公園(アメリカ)
・ヨセミテ国立公園(アメリカ)