氷河(ひょうが)ができる過程(かてい)=永塚(ながつか)さん作製(さくせい)
みなさんは氷河を見たことがありますか? 氷河は「氷の河」と書く通り、ゆっくりと流れる氷の塊です。極地や高山では、陸上に降り積もった雪が長い時間かけて圧縮され、氷となります。そして大きく成長すると、自身の重さによって下へと流れ、氷河となるのです(図)。最近では富山県や長野県でも氷河が発見されています。
私は小さい頃からペンギンが好きで、小学生の時に南極観測船を見学したことで極地に興味を持ちました。そして、大学生の時にアラスカの氷河の調査に行き、その大きさや美しさに感動して研究者を目指そうと思いました。
しかし、この美しい氷河もいずれ消滅してしまうかもしれません。地球上の氷河の99%は南極や北極にありますが、最近、特に北極で氷河が急激に解け始めているのです。一体なぜなのか考えてみましょう。
表面(ひょうめん)が黒(くろ)く汚(よご)れているグリーンランドの氷河(ひょうが)=永塚(ながつか)さん撮影(さつえい)
一つは、温暖化です。北極では地球全体の2~3倍の速度で温暖化が進み、この50年で約3度も気温が上昇しています。二つ目は、氷河の「暗色化」です。氷河には雪や氷以外にも、風で飛ばされてきた砂粒や寒い環境に適応した微生物などが集まって表面を黒く汚しています(写真)。黒い色は光を吸収するので、このような氷河は氷の解ける速度が速くなります。グリーンランドでは2000年以降、黒い氷の面積が拡大して氷河を解かしていることがわかってきました。氷河が解けているのは温暖化のせいだけではないのです。
氷河の暗色化の研究は始まったばかりで、世界中の研究者が協力して仕組みを解明しようとしています。暗色化の謎が解ければ、今後氷河が解けたり、それによって地球の海水面が上昇したりするのを正しく予測することにつながります。氷河だけでなく、北極や地球全体で起きている変化を知りたいと思う「好奇心」が、謎を解く重要なヒントを与えてくれるに違いありません。
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このコーナーでは、毎回異なる極地の研究者が登場し、最新の話題を提供しています。
日本極地研究振興会
極地と呼ばれる南極・北極地域のなぞに挑む研究者や、昭和基地を訪れている小中高校の先生による「南極授業」を支援しています。地球上で最も急激に進む極地の温暖化や環境変化を広く知ってもらう活動も。発展学習のためのウェブサイトはこちら→
永塚尚子さん
「アジア、アラスカ、グリーンランドと世界中の氷河を調査しています。氷河は好きですが、寒いところは苦手です」
国立極地研究所・気水圏研究グループ。専門は、雪氷学。出身小学校は東京都北区立桜田小。38歳。