「新(あら)たな挑戦(ちょうせん)となる舞台(ぶたい)をとても楽(たの)しみにしています」と話(はな)す吉田(よしだ)さん
7月28日から新国立劇場(東京都渋谷区)で「こどものためのバレエ劇場」が上演されます。毎年夏に開催されていますが、今年は古典バレエの最高傑作「白鳥の湖」が、進行役(MC)の俳優やダンサーたちの楽しい解説付きで鑑賞できます。舞踊芸術監督の吉田都さんに、この作品の見どころを聞きました。
世界的なバレリーナとして活躍していた吉田都さんが、引退後に舞踊芸術監督を務める新国立劇場では、毎年「こどものためのバレエ劇場」を行っています。今年は通常公演で使用された「白鳥の湖」の豪華なセットや衣装が使われます。
「言葉」で説明する
もともとバレエは、言葉を使わない「マイム」というしぐさ(身ぶり手ぶり)で物語を表現します。ところが今回の「白鳥の湖」では、進行役の俳優やバレエダンサーたちが、客席の子どもたちとやりとりしながら舞台が進むため、舞台と客席とのコミュニケーションも楽しめる仕組みになっています。
中でも王子とオデットの出会いの場面では、オデットが自分のことをマイムで語り、そのマイムを言葉で説明します。
吉田さんにとって、こうした舞台は初めてだそうです。「客席の皆さんには、一緒にマイムに挑戦してもらいます。バレエダンサーたちにとっても、舞台で話すのは初体験ですから最初は戸惑っていました。しかし、今回の舞台をきっかけに、ダンサーの新しい一面をみなさんに知ってもらえると思います」と吉田さんは話します。
今回の公演は、小さい4羽の白鳥の踊りや第3幕のお城の舞踏会での民族舞踊、主役のオデットとジークフリード王子や、悪魔の娘オディール(オデット役が二役を演じる)の踊りなど、有名な見せ場はしっかり盛り込んでいます。上演時間は約1時間で、オーケストラによる生演奏が流れます。
バレエって難しい?
みなさんの中で、バレエを鑑賞するのはちょっと難しそうと考えている人はいるでしょうか。
そう感じている人に対し、吉田さんは「詳しい内容はよくわからなくても、バレエを実際にみて、音楽や踊りにただ衝撃や感動を受けるだけで良いと思います。その小さい体験を積み重ねていくことが大切です」とアドバイスをくれました。
小学生時代にすでにバレエを習っていた吉田さんは、バレエの先生に「本物(の芸術を)をみなさい」と言われたそうです。「子どもの心は柔らかいです。そのため、そうした時に芸術に触れた人は、暴力的にならないなど成長の過程に大きな影響があると言われています」と吉田さんは説明します。
今回のプログラムは、初めてバレエをみる子どもたちにも楽しめるしかけがたくさんあります。吉田さんは「劇場の雰囲気も含めて、ぜひ芸術を味わって、楽しんでほしいです」と話しています。【木谷朋子】
新国立劇場舞踊芸術監督・吉田都さん
1965年生まれ、東京都出身。世界最高峰といわれるイギリスの二つのロイヤル・バレエ団で、1988年から2010年まで22年間プリンシパル(主役級を演じる最高位の踊り手)として活躍。2020年9月から新国立劇場舞踊芸術監督として、日本での後進の育成とバレエ文化の普及に力を尽くしています。