古典文学の最高峰「源氏物語」で新発見だ。失われたと思われていた第5帖(巻)「若紫」(126ページ)の最古の写本が見つかった。「小倉百人一首」でおなじみの歌人藤原定家(1162~1241年)が側近らに書き写させて校訂したもの。800年の時を超えて見つかった鮮やかな筆跡に、研究者も「国語の教科書にも影響するほど画期的だ」と興奮している。
藤原定家が校訂
源氏物語は平安時代中期に紫式部によって書かれた物語で、54帖から成る。主人公の光源氏、その子の薫と女性たちの関わりなどを通じて貴族社会の人間像を描いている。手書きの写本で伝わり、日本文化に大きな影響を与えた。
中でも「若紫」は源氏物語の「神髄」とも言われる有名な場面だ。光源氏は憧れていた義母・藤壺女御にそっくりの少女と出会い、引き取る。少女は後に源氏の終生の伴侶、紫の上となる。
新たな確認は80年ぶり
写本の発見は、定家らの古い書物を研究保存する京都市の冷泉家時雨亭文庫が8日に公表した。江戸時代に大名だった大河内家(東京都新宿区)で今年2月に見つかった。54帖のうち、定家の写本が確認されていたのは「花散里」「行幸」「柏木」「早蕨」の4帖(いずれも重要文化財)だけで、新たな帖の確認は昭和初期以来約80年ぶり。
源氏物語の原本は早くから失われていたとみられ、物語はさまざまな写本で伝えられたが、間違いなども多かったという。約200年後に書写された定家本は、さまざまな古い写本を比較検討し、より正しく復元しようとまとめられた。
現在普及している源氏物語は、室町時代に定家本をもとに作った写本(大島本)を用いている。源氏物語研究者の山本淳子・京都先端科学大教授は、今回発見された定家本の若紫について「原本に最も近い『若紫』だ。若紫は高校の教科書にも登場しており、今後は当初の姿をとどめた定家本が用いられるだろう」と話している。
■KEY WORDS
【写本】
現在は印刷された本を簡単に手に入れることができるが、印刷技術が発明される前は、本は人の手で一文字一文字書き写されて作られていた。
【藤原定家(1162~1241年)】
鎌倉時代初期の歌人。歌学と古典研究の第一人者で、「小倉百人一首」「新古今和歌集」「新勅撰和歌集」の選者。