映画の一場面。菅谷さんがレコードジャケットのデザインためにボルトのオブジェを作っている©2020「エポックのアトリエ」製作委員会
レコードジャケットをつくる人と聞いて、どのようなイメージが浮かぶだろう。菅谷晋一さん(46)は、手作業にこだわる仕事ぶりで知られるレコードジャケットなどのデザイナーだ。ユニークな制作過程を追った映画が8日、公開された。菅谷さんに、デザインの楽しみや子ども時代を聞いた。【野本みどり】
菅谷さんは子ども時代から、常に一人で何かを作って遊んでいたという。図工が得意で、漫画「ドラえもん」の人形が空中にひもで上がる仕掛けを作って、親戚のおじさんを出迎えるようなサプライズも好きだった。
レコードジャケットに興味を持ったのは、中学生の時だ。行きつけの貸しレコード店のセールがきっかけになったという。「レコードを買った人は音を聞く前にジャケットを見る。畳の上に買ったレコードのジャケットを並べて、かっこいいなと思いました。レコード屋は美術館。最新のアートでした」と、当時を振り返る。
実家はステレオの部品などを作る東京都内の金型製造の町工場だった。卒業後は跡を継ぐつもりで実家の工場で働いた。しかし、デザインの仕事がしたくて、3年ほどで辞める。「僕が本当にやりたいのはデザインだと、父も当初から思っていたようで、応援してくれました」
大学で建築を学び、デザインの仕事を志す先輩を間近で見ていたことや、パソコンが安く買えるようになったことなども追い風となった。撮りためていた写真を加工して、架空のレコードジャケットを作るうちに、音楽家やレコード会社の人と出会い、ジャケットのデザインを手がけるようになる。
映画の一場面。完成したザ・クロマニヨンズのレコードジャケット=(C)2020「エポックのアトリエ」製作委員会
8日に公開された映画「エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット」(南部充俊監督)では、菅谷さんがスケッチをしたり、絵の具でクレーンゲームの大きな赤いボタンの絵を描いたり、巨大なボルトのオブジェを作ったり、写真を撮ってコラージュをしたりする地道な作業を映し出す。菅谷さんが手作業にこだわるのは「自分の手を動かして見てもらった方が伝わりやすい。手仕事で作ったものに感動してもらいたい」という理由だ。手を動かしているうちに、イマジネーションがわくこともあるという。
菅谷さんにとってのデザインは「自分にしばられないで、表現が無限大にできる」という楽しいもの。作るオブジェは重さ70キロになることも。どんどん大きくなるのも、ひたすら楽しいからだという。
プロフィル
1974年生まれ、東京都出身。東京都内のアトリエで、ロックバンドの「ザ・クロマニヨンズ」「OKAMOTO’S」などのレコードジャケットや本の表紙など、さまざまなジャンルを、あらゆる手段で表現している。