ベラルーシのポーランド国境付近の物流倉庫で、子どもを抱く男性=11月28日、AP
厳寒の中で死者も
旧ソ連のベラルーシ西部のポーランド国境付近にイラクなどから来た数千人規模の移民らが押し寄せ、入国を阻もうとするポーランド当局との緊張が続いている。
欧州連合(EU)はベラルーシが経済制裁への対抗策として、非正規移民を「難民」に仕立てる形で「(政治的)圧力をかけようとしている」と非難。一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は関与を否定した上で、ポーランド当局による越境阻止について「(EUには)人権と自由があると思っていた」と皮肉った。
現地では数千人が立ち往生し、厳しい寒さの中で死者も出ている。移住希望者の多くはイラク北部の少数民族クルド人だ。ベラルーシの国営旅行会社のツアーで渡航したとされる。ベラルーシ治安当局の手助けで鉄条網をくぐり、越境した人々もいる。
日本を含む主要7カ国(G7)の外相は11月18日の声明で「冷酷な行動で人々の命を危険にさらしている」とルカシェンコ政権を非難。弾圧を続ける「自国民らへの人権軽視から関心をそらそうと試みている」と指摘した。
EUと、難民・移民問題の協議を始めたベラルーシ当局は、一部難民の帰国支援を始めたほか、物流倉庫を開放し、国境沿いで野営していた約2000人のうち多くを保護し、食事などを提供して「人道支援」を強調している。
ルカシェンコ政権は今後も難民らの動きを容認しながら、自国に制裁を科すEUに圧力をかけ続ける方針とみられている。
■KEY WORDS
ベラルーシのポーランド国境付近の物流倉庫で、防寒着などを受け取る移民ら=11月28日、AP
【経済制裁】
1994年から強権的な政権運営を続け、「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領が2020年8月の大統領選で6選を果たした。その際、選挙の不正を批判する大規模な抗議デモが広がったが、政権が徹底的に弾圧した。それを批判するEUは、ルカシェンコ大統領と政府高官の資産を凍結するなどの制裁を科した。今年5月には、反体制派ジャーナリストが搭乗していた欧州の旅客機をベラルーシ当局が強制着陸させる事件もあり、EUは制裁を強化した。
【クルド人】
トルコ、イラク、イラン、シリアなどに国境をまたいで約3000万人が住むとされ、「国家を持たない最大の民族」と呼ばれる。イラクでは2003年のイラク戦争開戦以来、長く戦乱が続いた。その中でクルド人自治区は、比較的治安の良いエリアとされてきた。しかし、少数民族として度々弾圧されてきた上、若者にとって就職は難しく、大勢が「欧州に行けばより良い将来がある」と考えているとされ、移民・難民が後を絶たない。