最終文書を採択できなかったNPT再検討会議=米ニューヨークの国連本部で8月26日
米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は8月26日夜に最終文書を採択できずに決裂し、閉幕した。採択は全会一致が原則で、ウクライナ侵攻をめぐる記述でロシアが反対した。2015年の前回会議に続いて2回連続の決裂。「核の脅し」や原発への砲撃など現実の「核のリスク」を前に、国際社会は解決策を見いだせず、核軍縮がさらに停滞するのは確実だ。
4週間にわたり議論
NPT再検討会議の議場で話し込むロシアの外交官(中央)ら=米ニューヨークの国連本部で8月26日
「残念なことだが、本日の昼、たった一つの国から反対すると通告された」。最終日26日夜、国連本部の総会議場の壇上でスラウビネン議長が告げると、会場は静まりかえった。その後、ロシア代表が発言を求め、「この最終文書には同意できない」と宣言した。
191カ国・地域が加盟する会議では、4週間にわたり核軍縮や核不拡散などが話し合われたが、ウクライナ侵攻をめぐりロシアと、ウクライナを含む欧米諸国が激しく対立した。最終文書案に対してロシアは、ウクライナ南部で占拠するザポロジエ原発などの管理権限がウクライナにあることを示す記述などに不満を示した。
「深い失望と強い憤り」
最終文書案は、妥協を重ねた最低限のものだったにもかかわらず、12年ぶりの採択に失敗した。「核保有国はウクライナ侵攻を核軍縮義務を果たしていない言い訳にしている」(核兵器廃絶国際キャンペーン<ICAN>のフィン事務局長)との指摘もある。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)などが参加する「核兵器廃絶日本NGO連絡会」は29日、「深い失望と強い憤りを禁じえない」とする声明を公表した。再検討会議は2010年に64項目の行動計画で合意して以降は新たな合意がされていないとして、声明は「NPTが機能不全に陥っている」と指摘。日本政府についても「果たした役割は最小限のもの」と強く非難した。
保有国、義務果たさず 軍縮の提案、ことごとく拒否 NPT体制限界
2回続けて最終文書が採択されなかったね。
ウクライナ問題で核の脅威が現実に迫るなか、NPT体制では何も解決できなかったということじゃ。
ロシアだけが反対したんだ。
ロシアが自国の立場に固執して、最終文書案に反対したのはその通りじゃ。でも、今回浮き彫りになったのは、核保有5カ国すべてが核軍縮の義務に真剣に取り組もうとしなかったことじゃ。会議の中では、核兵器の先制不使用や、核兵器の使用や威嚇をしないという非核保有国への保証といった提案もあったが、核保有国はことごとく拒否したんじゃ。核軍縮の義務を保有国が果たさないのなら、核を保有しようとする国も出てくるかもしれん。NPT体制崩壊の恐れもあるんじゃ。
会議は意味がなかったの?
核軍縮について国際社会が真剣に話し合う場をもつことは大切じゃ。採択はできなかったが、ロシア以外の国や地域が最終文書案に合意する方針だったことや、NPTだけで核軍縮を目指すのは難しいとわかったことも、成果の一つかもしれんのう。
日本はどうしたらいいの。
岸田文雄首相は「核保有国の入っているNPTの下で核軍縮を進める」といってきたけど、本当にそれだけでよいのかのう。日本が批准していない核兵器禁止条約も含めて、核のない世界に向けて、あらゆる可能性を検討してみるべきじゃないじゃろうか。
■KEY WORDS
【最終文書案】
「核の先制不使用」政策を核保有国に求める記述など野心的な内容が削除される中、各国ともぎりぎりの交渉で妥結を目指した。ザポロジエ原発については「重大な懸念」を表明し、ロシアの名指しを削除した上で「ウクライナ当局による管理確保が最も重要だ」としたが、ロシアはさらに修正を求めた。一方、核保有国による「核兵器廃絶の明確な約束」を含めた過去の合意事項は再確認していた。核保有国が批判的な核兵器禁止条約についても、条約が発効し、6月に締約国会議が開かれたという短い事実のみだが、表記することに核保有国は同意していた。
【NPT体制】
1970年に発効し、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用を3本柱とする核拡散防止条約(NPT)に基づく国際的な核管理体制。条約では米露英仏中の核保有5大国だけに核兵器の保有を認め、その代わりに第6条で核軍縮交渉を進める義務を課している。
【核兵器禁止条約】
核兵器の使用や開発、実験、製造、保有を禁止する国際条約。核抑止力のもととなる「威嚇」も禁じている。2021年1月に発効。今年6月にオーストリアのウィーンで開かれた第1回締約国会議には83カ国・地域が参加。核兵器は「人類の存亡に深刻な影響を与える」と強調する政治宣言と締約国の今後の方針をまとめた50項目の行動計画を採択した。