
連載
男の気持ち
男性読者による投稿欄「男の気持ち」。「女の気持ち」とともに出来事や悩みなど「時代の心」を映しています。
-
#735
ミニランドセル 山口県下関市・安田久男(71歳)
4/18 06:17 573文字3月下旬、遠方に住む孫娘が小学校を卒業した。私たち夫婦にとって初孫であり、心待ちにした誕生でもあった。 その後、東日本大震災の影響で、娘と共に我が家に帰省したのが2歳のとき。それから1年近く、同じ屋根の下で生活したが、この間、孫娘を中心とした生活を送った。 特に2歳前後は「目に入れても痛くない」一
-
#734
金婚式めざして 鹿児島県霧島市・久野茂樹(71歳)
4/16 06:43 579文字令和も3年目に入りました。私たち夫婦も今、71歳と65歳です。既に鬼籍に入った友もいて「ああ、自分にも人生のゴールが近づいて来たんだ」としみじみとすることが多くなりました。 思い起こせば40年ほど前、私たちはある建設会社の営業所で知り合い、恋に落ちました。28歳だった私は、それまでの女性と全く違っ
-
#733
38分の1 東京都国立市・佐藤建(アルバイト・39歳)
4/16 02:01 530文字「へえ、上手だねえ!」 その声に顔を上げると、彼女が僕のノートをのぞき込んでいた。いつも先生から注意されていた落書きを見られたばつの悪さと、女の子にほめられた照れもあって「そんなことないよ」と、つい素っ気ない返事をしてしまった。 転校してきて間もない彼女とそんなやり取りがあったのは、小学5年生の2
-
#732
部活動 長崎市・福吉拓雄(77歳)
4/6 06:12 547文字4月は進級や入学の季節。この時期、忘れられないのが部活動のことだ。戦後は剣道はしばらく禁止されていたが中学2年になった時、自分の学校でも解禁となり、体育の正課、授業に取り入れられた。 この頃は戦前、剣道の経験がある先生は珍しいことではなかった。5段で師範、顧問のY先生は国語、英語の先生で剣道部も指
-
#731
一念発起 京都市左京区・大谷重信(非正規職員・72歳)
4/6 06:11 556文字江戸時代の仙厓和尚は、老人六歌仙で「皺(しわ)がよる 黒子(ほくろ)ができる 腰曲がる 頭はげる ひげ白くなる」「手は震う 足はよろつく 歯は抜ける 耳は聞こえず 目は疎くなる」と描いた。人により程度は違えど、私の場合は不安やうつが加わる。 70歳を超えるとさまざまな臓器に不具合が起こるのは自然な
-
-
#730
お地蔵さん 北九州市八幡西区・前田裕司(非常勤講師・64歳)
3/31 06:32 566文字ずいぶん昔のことだが、実家近くの丘の上にお地蔵さんがあった。信心深い親戚の女性が無縁仏を供養するために建てたもので、その世話を母が任せられていた。私も幼い頃から母に連れられてお参りするのが日課だった。 そのうちにご飯やお茶をお供えする仕事を任せられた。雨の日や寒い日もあったが嫌だと思ったことはなく
-
#729
フキノトウ 北九州市戸畑区・津田守之(65歳)
3/26 06:27 557文字野辺を散策しながら自分で採ったフキノトウを、妻に頼んで天ぷらにして食べた。柔らかな色と形、サクッとした歯触り、口中に広がる香りと爽やかな苦み。春が五感に流れ込んできた。ビールと一緒に。「お陰様で」と独り言。 59歳でがんを患ったが手術後の経過は良好で、6年が経過した。退職する日まで仕事上は特別な支
-
#728
恩師 神戸市西区・中田英富(会社員・62歳)
3/25 06:25 557文字部屋の片付けをしていたら中学の卒業アルバムが出てきた。ちょっと休んで、コーヒーを飲みながらアルバムに見入った。懐かしい友、お世話になった担任の先生。席替えをする度に私の席は一番前。先生の目を盗んでいたずらをしようにもできなかった。 私は聴覚に難があり、先生が察知したのか、あるいは母が先生にお願いし
-
#727
消えた傘 山口県宇部市・金田保(90歳)
3/23 06:20 542文字朝から小雨の日。老夫婦二人で買い物に行く。私たちは宇部市が進める健康づくりサービス「はつらつ健幸ポイント」に参加しており、できるだけ歩くことにしている。もちろん、私は荷物運搬係でもあるのだが……。 ばあさまは古いビニール傘を差して出る。傘は不要ではと思いながら、つえ代わりにもなると少し上等のものを
-
#726
腕時計 長崎市・松下清(72歳)
3/21 06:39 562文字春になり、新社会人がスタートする季節だ。私は21歳で社会人になった時、亡くなった父が就職祝いに町内の時計屋さんから腕時計を買ってくれた。その時計は50年以上たった今でも毎日使っている。何度か故障し、その度に修理して使っており、父の形見のようになっている。 私は、高校生までは祖父の腕時計を使っていた
-
-
#725
雨の日の出合い 埼玉県宮代町・野口昌男(無職・76歳)
3/20 02:01 510文字小雨がそぼ降る中、近所の遊歩道を歩いた。 健康のためのウオーキングで、雨でも欠かさない。薄墨色の空に花木が溶け込み、晴天時とは違う美しさに目を見張る。天候のせいもあり、人影はまばらだ。 突然、「ホーホケキョ」と鳴く声が聞こえた。ウグイスだ。それもすぐそばにいる。立ち止まると、歩道の植え込みからひょ
-
#724
いつまでも 東京都足立区・古館勝行(プランナー・71歳)
3/13 02:01 554文字71歳を迎え、この3月で第一線を退くことにしました。結婚と同時に就職し35年。雨の日も風の日も嵐の日も休むことなく、無遅刻無欠勤の超優良社員でした。35年を振り返り、誇れるのは勤勉なのが評価され定年を延長されたことぐらいです。功績がないながらも、社長は私を見習えと社員に活を入れます。うそでもうれし
-
#723
津波てんでんこ 鹿児島県出水市・谷口歩(団体職員・50歳)
3/11 06:29 571文字「より速く、より高く、より強く」はオリンピックのモットーであるが、三陸地方に伝わる「津波てんでんこ」の心構えにも通じる。助かるためには、てんでばらばらに、より遠くの場所へ、より高い土地に、一刻も早く逃げる。 「津波てんでんこ」における「より強く」だが、力強い走りで逃げ切ることだけではない。「振り返
-
#722
未練 北九州市小倉北区・小川龍二(75歳)
3/9 06:59 552文字車に50年近く乗ってきた。乗り換えた台数も10台ほどになるだろう。現在の車は車検が近い。その上わが年齢も70代半ばともなると、周囲から注がれる目も厳しい。 「免許証の返納を」とも時にアドバイスされるが、おいそれと「はい、そうですか」というわけにもいかない。免許証は、まだ3年ほどの期限があるはずだ。
-
#721
息子たちの門出 大阪府枚方市・鳥居巧(会社員・35歳)
3/7 06:33 576文字「パパ、見て!」。大きくて表面の光ったランドセルを背負い、照れくさそうに笑う長男。真新しい制服に帽子とかばんを身に着け、うれしそうに見せに来る次男。桜の花が開く頃に小学校、幼稚園という新たな世界に飛び込む息子たちの笑顔がまぶしい。 父親になり6年余り。2人は私の心に数多(あまた)の成長の軌跡を残し
-
-
#720
昭和の歌 山口県下関市・柴口勇(85歳)
3/7 06:32 561文字コロナでの巣籠もりが1年続くさなか、寒波で鉢植えの「金のなる木」が全滅した。ブルーの気持ちは深まるばかり。生来自分は井の中のかわずだからさほど苦にならないと思いきや、友人との交流が途絶えるとさすがにつらい。 巣籠もりで覚えた晩酌は九州の芋焼酎の湯わりで、さかなは子持ちシシャモや地元の天然のアジ、ブ
-
#719
1人暮らし 川崎市幸区・辻田紀一郎(無職・80歳)
3/7 02:01 544文字毎朝5時には起床する。冬場でも湯を使わず水で洗顔する。シャキッとしたところで身支度を整え、妻の写真に水を供え、線香をたく。「よし今日も頑張るぞ」と声をかける。 ベランダに出て大きく深呼吸をしながら、一日の無事を祈る。そして、抱えている病気の進行を少しでも遅らせるために、自己流のストレッチを毎朝30
-
#718
忘れ得ぬ10年 兵庫県豊岡市・高橋正透(無職・68歳)
3/1 06:41 547文字教職を退いて8年になるが、3月11日が近づくにつれて思い出すことがある。 東日本大震災から1カ月後の4月、毎年稲作を体験している5年生の数人が、「学校田を広げてもらえませんか」と言ってきた。訳を聞くと、2004年の台風で地域も大きな被害を受けたとき、日本中の人たちに助けてもらったお礼と、東北の被災
-
#717
奇跡の友情復活 大分市・浅野努(79歳)
2/24 07:15 568文字妻が持ってきたのは、50年以上前に教え子からもらった1枚のクリスマスカードだった。その頃、私はニューヨークの大学で非常勤講師として医学部進学希望者にとって必修である「入門化学」の演習を担当していた。 履修生の一人スコットはなぜか、英語もたどたどしい新米教師を信頼してくれて、授業時間以外にも質問に来
-
#716
ピアノ 三重県伊勢市・嶋田忠彦(無職・79歳)
2/23 02:00 555文字我が家の2階にピアノがある。かつて娘が、十数年前には孫娘たちが遊びにきたときに弾いていた。その後はカバーをしたままになっていた。 2年ほど前、市の生涯学習センターから「中高年シニア向けのピアノ講座」の開催案内があった。「楽譜が読めなくても大丈夫。指の運動は脳の活性に最適」とある。私は右手でドレミフ
-