
男性読者による投稿欄「男の気持ち」。「女の気持ち」とともに出来事や悩みなど「時代の心」を映しています。
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田植え 埼玉県宮代町・野口昌男(無職・77歳)
2022/5/19 02:01 513文字今年も田植えの季節がやってきた。私の実家は農家なので、田植えは懐かしい思い出だ。 私が子どもだった昭和の半ばは、農業の多くが手作業で、特に田植えは多くの人手を要した。私の家でも田植えのときは兄弟や親戚、集落の互助組織「結」の人たちなど10人以上が集まった。 田植えは皆が横一列になり、腰を曲げて後ろ
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母の運転 鹿児島県出水市・谷口歩(団体職員・51歳)
2022/5/16 06:10 571文字40歳代半ばで自動車学校に行き始めた母は、路上教習前の最終試験で教官から「今日はもうこれくらいにしておきましょうか」ととても優しく言われたのが応えたらしい。 車庫入れ、縦列駐車、坂道発進、クランク、S字カーブのコンビネーションで立て続けにダメを出されたらしい。帰宅してもしょげたままだった。 3年後
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私の戦争史 福岡県遠賀町・朝倉眞男(77歳)
2022/5/12 05:49 546文字私が小学生の頃、公園の遊具施設はブランコか滑り台ぐらいでした。それには興味がなかったので遊ぶ場所は自然に山の方向となりました。 草木に覆われていない高台や高射砲陣地跡、トンネルのような高さ4メートルほどの防空壕(ごう)跡などです。内部には角材が整然と敷き詰められ、寝起きもできそうでした。外には湧き
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大声で歌いたい 秋田市・土谷実(無職・78歳)
2022/5/7 02:00 522文字歌が大好きでいつも口ずさんでいる。特に民謡が好きだ。きっと昔、民謡が好きな母が炊事や農作業をしながら歌っている姿を見て育ったからだろう。 しかし、コロナ禍で仲間とのカラオケや歌のサークル活動も休みとなり、大声で皆と歌う機会がなくなった。歌えないとストレスがたまるので、最近はウオーキングの途中、無人
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タヌキの置物 山口県下関市・安田久男(72歳)
2022/5/6 05:57 555文字長年、実家の庭先に鎮座してきたタヌキの置物。私の不注意から落として割ってしまった。このタヌキは30年前、母親が滋賀県の信楽で買い求め、自宅に送った陶器だ。いつも家族の帰省時には、愛嬌(あいきょう)のある笑顔で迎えてくれて、みんな庭を眺めては「帰って来た!」と心が安らいだ。 7年前、私たちの家族が実
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母の煮豆 三重県いなべ市・篠原英之(無職・80歳)
2022/5/5 02:03 536文字父を早く亡くし、家族3人で貧しい生活を送った。母は内職をしながら私と妹を育ててくれた。少々の熱があろうと構わず仕事を続けていたのには感服する。 私が母に「熱があるなら少し休めばいいのに」と言うと、母は「これをやめたら明日のご飯が食べられない」と答えた。そういえば、一度も寝込んだのを見たことがない。
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わが定時制高校 広島県福山市・小川洋二(無職・87歳)
2022/5/3 05:42 566文字昭和30(1955)年に私が卒業した広島県立呉三津田高校の定時制が3月末、87年の歴史に幕を閉じました。26年に入学し、「働きながら学ぶ」人生の出発点でした。 昼間は自転車の荷台に20貫(75キロ)を超える文房具の商品を積んで走る毎日。17歳、身長145センチ。地面に足が届かない! 上り坂では自転
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ボタンに思う 北九州市小倉南区・山口敬司(69歳)
2022/5/2 05:27 561文字数日続いた初夏のような日差しを浴び、頃合いの少雨から我が家のボタンのつぼみがにわかに膨らんできた。 庭に降り、妻と「まだか、まだか」の声を上げていると、まるで応じるように地蔵さんが手に持つ宝珠の形をしたつぼみが見事に開花したのだった。淡いピンク色、その様はとても美しく「異国の美人に出会ったようだ」
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タヌキの恩返し 埼玉県越生町・宮崎功(無職・79歳)
2022/5/2 02:01 533文字私が住む山里は自然豊か。少しばかりの畑に野菜を作っているが、収穫のころになると野生動物に先に取られてしまい、悔しさを味わうことが多々ある。夜間は恐らく、野生動物たちの運動会が開かれているであろう。 昨今は、イノシシや鹿が日中でも悠々と歩く姿が見られるようになった。動物が交通事故に遭うのも日常茶飯事
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光陰矢のごとし 長崎県諫早市・江川謙吾(パート・68歳)
2022/4/25 06:47 567文字男ばかり7人兄弟の5番目、一堂に会すると老人ホームの娯楽室みたいだ。子供の頃、両親は自営業で朝3時から仕事をしていた。家族が多く全員での食事は正月に雑煮を食べるときぐらいだった。 家計が苦しいのは子供にもわかった。ランドセルをはじめ学用品や洋服はお下がりが当たり前。部屋は狭く机は兄2人分、下の兄弟
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背比べ 横浜市戸塚区・福島淳(アルバイト・65歳)
2022/4/21 02:00 540文字21年前に母が亡くなった。父亡き後、それまで母が一人で守ってきた熊本の実家を、私が引き継ぐことになった。幼稚園児のころから高校を卒業して故郷を離れるまで暮らしていた、私にとっても愛着のある実家だ。 そうはいっても当時、私は40代半ばで、東京勤務の会社員として仕事も面白い盛り。故郷に戻るという選択肢
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家事手伝い 神戸市兵庫区・柏木史雄(無職・71歳)
2022/4/19 05:38 557文字昨年退職し、それまで仕事で忙しかった昼間の過ごし方を思案した。再就職やボランティア活動も考えたが、仕事から解放されゆっくりしたい気持ちもあった。 わが家には重度精神障害のある娘がいるが、世話は妻任せにしている。せめて家事の負担を軽くしてあげようと、食後の食器洗いをすることを宣言した。たかが食器洗い
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感謝と充実感 東京都品川区・中山泰彦(会社役員・67歳)
2022/4/19 02:01 534文字9年前に88歳で他界した父は、晩年は認知症を患い、頭と体の機能が少しずつ衰えていく中、静かに日々の生活を送っていた。 私は四十数年前に実家を離れ、そして遠方であることを口実に実家にはたまにしか顔を出さない、とても親孝行とはいえない息子であった。実家を訪れた際も、普段から口数の少ない父とはあいさつ以
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癒やしの食堂 山口県周防大島町・中村次男(80歳)
2022/4/17 06:00 561文字名は知られていないが、清く美しくという雰囲気を漂わす食堂が我が島にある。 昨今、営業者たちは一銭でも多くもうけようときゅうきゅうとしているようだが、世の中、必ずしもそうばかりではない。場末の感漂う目立たぬ食堂で、店の前の道を車で走っていても注意していないと気づかぬかもしれない。 だが、昼時になると
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不要になった物 福岡県柳川市・森田修示(70歳)
2022/4/14 05:34 566文字不要になった物は、背広、ネクタイ、革靴、通勤定期券、リュック、弁当箱そして駅まで使う自転車だった。目覚まし時計も要らない。 3月末で長年のサラリーマン生活に別れを告げた。この年まで仕事に恵まれ、年金の受給も70歳まで遅らせた。 「もういい年だから仕事を辞めるよ」と宣言すると長男は「絶対ボケるから何
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桜の木との別れ 岐阜県養老町・川瀬滋樹(パート・71歳)
2022/4/13 02:00 556文字3月末、我が家のソメイヨシノの木に別れを告げた。伐採する日が来たのだ。 植樹して35年になるだろうか。長女が5歳のとき植木屋で買った。両親に反対され、仕方なく庭の隅の土手に植えた。みるみるうちに大きくなり、毎年きれいな花を咲かせて家族を幸せにしてくれた。 7年前、母が入院先の病院から桜を見に帰った
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ツワブキ 長崎県南島原市・末吉貴浩(自営業・62歳)
2022/4/12 05:31 569文字かつて、私が勤めていた職場で知り合いだったAさんとスーパーでバッタリ会った。「わー、久しぶりです!」。80代になられた彼女の元気な笑顔は当時のままだ。 ちょうど今ごろの季節、Aさんたち数人とツワブキ採りに出かけたことがあった。春の日に包まれ、わいわい楽しく採った思い出がある。そんな懐かしい話に花が
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新たな道へ 福島市・水野賢一(地方公務員・50歳)
2022/4/7 02:02 554文字ちょうど4年前、本欄で、大学進学のため上京する長男との18年間を振り返った投稿をし、掲載された。その長男が大学を卒業、今月から東京の食品メーカーに就職した。 9月までは研修のため埼玉県で暮らす。先月下旬に数日間帰省した長男は、造花と手紙とともにサプライズで「22年間育ててくれてありがとう。僕の考え
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出会い 長崎市・松下清(73歳)
2022/4/5 05:20 566文字大学の入学シーズンになった。私も昭和42(1967)年に長崎を出て京都で入学式を迎えた。式の前日、下宿先で母と荷物を整理していると、隣の部屋の初対面の大学4年生の人が「大学は授業に出なくてもパチンコとマージャンができれば大丈夫。可愛い女の子も紹介するよ」などと気軽に話し掛けてきて私と母は心配になっ
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引っ越し 北九州市八幡西区・前田裕司(パート・65歳)
2022/4/3 05:39 574文字◇前田裕司(ひろし) 住宅街で引っ越しのトラックを頻繁に目にするようになった。そんな時期になったかと自身の転居を思いだす。 これまでに住んだ場所は実家から始まり、海外の2カ所を含めて19カ所。転居は大学進学、就職、結婚、転職、戸建ての購入、転勤、海外赴任など人生の節目だったので、さまざまな思いで引
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