テスラモデルSのコックピットにある大きなタッチパネル=山本晋撮影
テスラモデルSのコックピットにある大きなタッチパネル=山本晋撮影

IT・テクノロジーITが変えるビジネスの近未来

テスラは自動車の皮をかぶったソフトウエアだ

林信行 / ITジャーナリスト

 ITの技術革新は日進月歩。生み出された製品やソフト、サービスが利便性をもたらし、経済を大きく動かしている。個性を持つ一人一人の個人を対象とした「BtoI」、すなわち「企業から個人(インディビジュアル)へ」という方向性を持つビジネスが強く意識されている。自動車や医療、教育、ファッション、水産業や農業などの1次産業で、ITを活用した先駆的で画期的な事例を紹介する。

ソフトウエアづくりで後れをとる日本メーカー

 自動車業界の流れが大きく変わり始めている。

 2001年、それまで家電メーカーが支配していた携帯型音楽プレーヤー市場に、当時はまだパソコンメーカーだったアップル社のiPodが現れ、あっという間に市場を奪った。

 その後、iPhoneの登場で、同じことが携帯電話市場でも起きた。携帯電話先進国と言われた日本のメーカーは、今ではすっかり存在感を失ってしまっている。

 故スティーブ・ジョブズは日本メーカーの敗因は「ソフトの重要性を理解できなかったから」と語っていた。iPodやiPhoneの本質は、優秀かつ常に進化し続けるソフトウエアにこそあって、美しい本体デザインはただの皮に過ぎないが、日本メーカーはそれを見抜けず、いいソフトづくりに努めてこなかった、と言う。

 今、これと同じことが自動車業界で繰り返されそうとしている。

テスラの本質は美しいデザインや性能ではない

テスラモデルS
テスラモデルS

 シリコンバレーで誕生したテスラ社の電気自動車は、しばしば、その美しいデザインやポルシェよりも速い加速性能や効率のいいバッテリーで話題になるが、それらすべてをまとめているのは非常によくデザインされたソフトウエアなのだ。

 最近では従来の自動車メーカーも電気自動車やハイブリッド車をつくっており、そこではもちろん、いろいろなソフトウエアは使われているが、テスラに乗っている人の話を聞くと、この車はまさに皮をかぶったソフトウエアだという印象を受ける。

 テスラ車の運転席のすぐ横にはiPadよりも数回り大きなタッチパネル液晶が用意されており、ここで地図の表示から、空調の管理など画面を分割してさまざまな操作をすることができる。例えば窓をちょっとだけ開けるときも、これまではちょうどいい具合になるまで、「開く」や「閉じる」のボタンを何度か押しっぱなしにして調整する必要があったが、テスラでは画面に表示された窓の絵を指でタッチして「これくらい」と指定できてしまう。

アップデートでテスラは常に進化し続ける

 また年に数回、この画面に「ソフトウエアのアップデートがあります」と表示され、実行すると、スマートフォンよろしく基本ソフトの更新が始まる。ナビなどのインターネット通信もそうだが、通信料はテスラ社が負担してくれる。

テスラの真の価値は駆動方式ではなくソフトウエアにある
テスラの真の価値は駆動方式ではなくソフトウエアにある

 今年1月のアップデートでは、車の正面についたカメラが対向車を捉えると、自動的にハイビームをロービームに切り替える機能や、目の前を走っている車の速度に合わせて自動的に加減速をするアクティブ・クルーズコントロールという機能が付いた。渋滞中などに効果を発揮するという。

 このようにテスラの車は、買った時の状態が最終形ではなく、買った後も基本ソフトの更新で常に車が大胆に進化し続けるのだ。

 もちろん、日本製の車にも「テレマティクス」と呼ばれるネット接続した画面が当たり前につくようになり、その機能はソフトの更新で進化をさせている。しかし、テスラの場合には、それが後付けのオマケではなく、皮の内側にある本質になっている。

自動車業界はケータイの二の舞いを演じるのか

 ソフトが本質になってくると、世界中のテスラのドライバーの運転記録情報を収集して(ビッグデータ)、それを基にどういった問題があるかを分析して、改善もしやすくなる。はるかに早く本質的な進化を繰り返すことができるようになり、旧来の自動車づくりをしているメーカーが置き去りにされてしまう可能性もある。

 もちろん、自動車の走行に関する部分もソフトで更新できるようにすることは、将来、ウイルスやハッカーらに車の制御を取られてしまう危険もないとは言えない。しかし、そのことに目をつぶってもいいくらいの魅力的な機能が提供され続ければ、多くの消費者はそんなことを気にしないだろう。

 今、自動車業界は、この15年でiPodとiPhoneに打ちのめされた家電業界の過ちを学ばなければならない。

≪ 教 訓 ≫ 自動車×IT

 ソフトウエアが主体の製品では、顧客の利用動向を細かく分析し、操作方法をAパターン、Bパターンの2種類用意して、どちらがよく使われるかなどのテストを行った上で効率良く進化させることができる。また、同じ機能をハードで実現した場合は、一つ一つの製品に対して部品代がかかるが、ソフトではこれがないので、製造数が多い商品では、ソフト開発に多少お金をかけても十分に元が取れてしまう。

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林信行

林信行

ITジャーナリスト

1967年生まれ。アップルやグーグルの動向や技術、製品を継続的に取材対象としており、情報技術分野のテクノロジーに明るい。近年は、自動車やファッションなどのさまざまな業界におけるIT活用の取り組みに関心を持ち、人々の暮らしや社会にもたらす変化をテーマとしている。著書多数。