品川女子学院の入り口に立つ、いけばな作家の州村衛香さん(左)と同学院の漆紫穂子校長=関口純撮影
品川女子学院の入り口に立つ、いけばな作家の州村衛香さん(左)と同学院の漆紫穂子校長=関口純撮影

社会・カルチャーなぜリーダーは生け花にハマるのか!?

生け花が世界に貢献できるこれだけの理由

編集部

対談:いけばな作家・州村さん×品川女子学院・漆校長(4)

 世界では、生け花は空間アートとしてさまざまな国で親しまれているという。制約が少なく、ハサミ一つあれば始められる生け花は、生け手が一人いれば海外に発信できる貴重な日本の文化でもある。品川女子学院校長の漆紫穂子(うるし・しほこ)さんと、いけばな作家の州村衛香(すむら・えいこう)さんが、生け花という日本文化を引き継ぐことの意義について語り合った。【聞き手、構成・大川内麻里

「空間アート」として世界で喜ばれる生け花

 −−グローバル化の進む昨今ですが、世界における生け花の受け入れられ方はどのような状況でしょうか?

 州村衛香さん 華道には、池坊、小原流、草月流の三大流派があり、それぞれが世界各国に支部を設けています。その他にもたくさんの流派があります。生け花は、世界中で楽しまれているもので、日本人に負けないくらい海外の方も楽しんでいます。

 多くの日本人にとって生け花は文化という認識でしょうが、諸外国の方は「植物による空間アート」と捉えることも多いです。海外で生け花のデモンストレーションを行う機会をよくいただきますが、とても喜ばれます。植物ならばどんなものでも生かせますから、現地の植物を使い、ときには倒木や落ち葉、流木を素材にすることもあります。器も何でもよくて、あらゆるものが花器になります。場所にも全く制限はありません。このようなアートは世界中を探してもほかにありません。

 昔の日本家屋のような床の間がないから、飾る場所がないからできないということはありません。リビングダイニングはもちろん、バスルームの小さなスペースにも花を生けることはできます。

 −−道具や環境が必要な茶道に比べて、生け花はハードルが低いと言えるかもしれませんね。

 州村 例えば、人気のある歌舞伎を海外に伝えようとすると、どうしても大がかりになりますし予算などの問題もあります。そう頻繁に行くことはできないでしょう。その点、生け花は1人の生け手がハサミを持って出向きさえすればよいのです。

 2008年、ベトナムへ招かれた時のことです。生け花を自国の文化にしたい、学校教育に取り入れたいから指導者を養成してほしいという話がありました。プロジェクトは数年続きましたが、残念ながら、当初支援してくださった日本のスポンサーが次々と降りてしまい、ベトナム側のスポンサーだけになってしまって中断しています。続けることの難しさを感じました。

 漆紫穂子校長 寂しいですよね。日本の文化の価値を届けて、絆を深めるチャンスでしたのに。組織改革をする時に、内側からは本当に価値のあるリソースが見えなくて、大切なものを捨てて、間違った方針転換をしてしまうケースがあります。それと似たことを感じます。

生け花の文化を残していくことの意味

 −−グローバル化の進む時代だからこそ、学校教育で生け花に触れるのは貴重な機会ですね。

 漆 授業を通して、生徒たちに生き物に対する思いやりや季節を楽しむ心、日本文化へ誇りが育まれます。しかし、この継承がぎりぎりのところにきていると感じます。グローバル化が進む今だからこそこの貴重な日本文化を残していきたいのです。

 州村 かつての日本家庭では、家のなかの少なくとも3カ所に花を飾っていました。お客様を迎える玄関と、床の間もしくは応接間。それから、生けていて短くなった花をお手洗いに。でも、それが2カ所になり、1カ所になって、今では花を飾る習慣が少なくなっており、さみしい限りです。

 漆 身近な日常にある日本文化こそ目を向けたいですよね。生徒の祖母世代にはあったものが母親世代には受け継がれていないようです。

 州村先生の授業を受けた生徒が家に花を持ち帰ると、長年しまわれていた花器や剣山が見つけ出されることもあります。最近は、私も習いたいという親御さんも多く、PTAで先生の生け花教室を開くようになりました。子供を通して花を飾る習慣が家庭に戻ってくるのです。

少子高齢化日本が世界で存在感を発揮するために

州村衛香さんの作品の一つ、セルリアンタワー東急ホテルのお迎え花=州村衛香さん提供
州村衛香さんの作品の一つ、セルリアンタワー東急ホテルのお迎え花=州村衛香さん提供

 −−最後に、生け花の可能性についてお考えを聞かせてください。

 漆 今後の日本における最大の問題は、少子高齢化に伴う人口減少だと思います。つまり、一人の子供が何人分もがんばらなければならない時代ですよね。そうした現状の中で、日本が国際社会の一員として、世界に貢献できることや、日本の持つリソースは何かを考えなければなりません。

 例えば、抜群の協調性や察する力、自然との共生など、まさに生け花を通じて得られることに思い至ります。環境問題が深刻化し、争いをおさめて資源を分け合っていかなければならない時代に、日本がリーダーシップを取って世界に貢献していくための要素が「生け花」には集約されていると思うのです。

 州村 そうした思いから、日本のトップリーダーたちに生け花のメッセンジャーになってもらいたくて、「フラワージャパン2015 ビジネスリーダーたちのいけばな展」を今年秋に開催します。こうしたイベントなどを通じて、生け花から得られる感性や考え方などを伝え続けていきたいと思います。<対談は今回で終わります>

<フラワージャパン2015 ビジネスリーダーたちのいけばな展・開催概要>

 対話力や想像力、自己表現力に優れた約25人のビジネスリーダーたちが花のメッセンジャーとなり、いけばな文化の魅力を伝える展覧会です。

 日時:2015年11月14日(土)、15日(日)の11〜20時(最終入館19時30分)/場所:ポーラ ミュージアム アネックス(東京都中央区銀座1丁目)/入場無料/主催:フラワージャパン実行委員会/問い合わせ・連絡先/フラワージャパン 港区高輪3の13の1 グランドプリンスホテル新高輪1階 IKEBANA ATRIUM内 TEL 03・3444・8744

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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