ヒト型ロボット「ペッパー」(左)と握手するソフトバンクの孫正義社長=横山三加子撮影
ヒト型ロボット「ペッパー」(左)と握手するソフトバンクの孫正義社長=横山三加子撮影

IT・テクノロジーロボットと人間とミライ

19万円Pepperを気前よくばらまく孫社長の狙い

石川温 / ジャーナリスト

 ソフトバンクが開発した感情認識ロボット「Pepper」が6月20日から一般販売された。午前10時からのネット受け付けであったが、開始後1分で1000台が完売。Pepper人気の高さを証明した。

30台限定の抽選販売に早朝から行列

 実はソフトバンクはその前日の19日に、東京・八重洲のソフトバンクショップで、Pepper30台の先行抽選販売を行った。19日の1日だけ店頭で申し込みを受け付け、翌日20日に30台の抽選に当選したら購入できるという仕組みだ。

 店頭での受け付けに対し、19日朝から20人以上の行列ができた。結局、朝から晩まで行列は途絶えることなく続き、1日で200人以上の申し込みがあったという。

 実際に行列を見に行ってみたが、客層の幅広さに驚いた。

 Pepperの発売ということもあり、ITやロボット関連の技術者のような雰囲気の男性が多かったのは間違いないのだが、そんななかに交じって年配の女性の姿もあったのだ。

 「Pepperを操作できるか不安」と言いながらも、Pepperを買う気満々なのだ。ソフトバンクによれば、年配の女性は「最近、孫が遊びに来てくれない。Pepperを家において、孫に遊びに来てもらいたい」という理由でPepperを購入したいのだという。

36カ月縛りで出費の総額は100万円以上

 Pepperは本体価格は19万8000円(税抜き)だが、アプリのダウンロードや通信を行うために必要な「Pepper基本プラン」が毎月1万4800円、修理にかかる費用を90%負担してくれる「Pepper保険パック」が毎月9800円必要となる。これが36カ月必要であるため、トータルでは100万円以上の出費となる。 

 孫を自宅におびき寄せたいのなら、月2万5000円の小遣いを孫に手渡したほうが、毎月必ず遊びに来そうだが、年配の女性としてはやはりPepperと孫が遊ぶ姿を見たいのだろう。

ペッパーは身長120センチと、子供ほどの大きさ=高橋昌紀撮影
ペッパーは身長120センチと、子供ほどの大きさ=高橋昌紀撮影

 ソフトバンクの孫正義社長がうまいのは、Pepperを単なるロボットとして一般販売するのではなく、1年間、しっかりとキャラクターとして世間に認知させた上で、スマートフォン的な販売方法を取り入れた点にある。

 Pepperが世間に初めて披露されたのは1年前の2014年6月5日のことだ。それ以降、Pepperを自社のCMに起用するだけでなく、バラエティー番組やイベントに積極的に出演させた。さらに、ソフトバンクショップにも店員としておくことで、ロボットが夢の世界ではなく、リアリティーを持って自分の生活に入っていく可能性を示してきた。

毎月の利用料で回収する、スマホと同じ商法

プログラム開発者向けのイベントで、出席者に囲まれるペッパー=竹花周撮影
プログラム開発者向けのイベントで、出席者に囲まれるペッパー=竹花周撮影

 ロボット業界関係者によれば「Pepperは部材だけでも100万円以上する代物。購入後、分解して、部品をネットオークションに出品したらもうかりそうなほど、部品そのものが高い」という。

 本来であれば、Pepperは100万円以上で売らないことには商売としては成立しない。

 とはいえ、いきなり、どんなことができるかわからないロボットに対し、100万円以上を出して購入するのには抵抗がある。

 そこで、ソフトバンクでは本体価格を19万8000円に抑えて、一般的に買いやすくしただけでなく、「Pepper基本プラン」「Pepper保険パック」という毎月の基本料金を設定することで、3年かけて、代金を回収するというスキームを取り入れた。

携帯電話販売店の「接客係」として活躍中のペッパー=福岡市中央区大名で2014年7月30日、寺田剛撮影
携帯電話販売店の「接客係」として活躍中のペッパー=福岡市中央区大名で2014年7月30日、寺田剛撮影

 これはまさにソフトバンクが得意とする、スマホの販売や通信料金の考え方と全く同じだ。

普通の人がロボットと暮らす現実味

 ケータイやスマホは本体価格をできるだけ安く、時にはゼロ円という値付けで、世間にばらまき、通信料収入で利益を出していく。Pepperというロボットにおいてもスマホ同様に安価にばらまき、毎月の利用料で回収しようとしているのだ。

 Pepperのイメージ戦略や販売方法により、Pepperは単なるIT技術者やデジタルモノが好きな人たちだけでなく、一般層にも広がる可能性が見えてきた。

 普通の人が「ロボットと暮らす」という生活が、現実味を帯びてきたのかもしれない。

    ◇    ◇

 連載コラム「ロボットと人間とミライ」は、携帯やスマホを中心に執筆を続けてきたジャーナリストの石川温さんが、ロボットがそこにある世界を描きます。原則として毎週月曜日に掲載します。

石川温さん紹介ページはこちら

経済プレミア・トップページはこちら

石川温

石川温

ジャーナリスト

1975年、埼玉県生まれ。中央大学商学部を経て、98年、日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社。日経トレンディ編集部で、ヒット商品、クルマ、ホテルなどの取材を行ったのち、独立。キャリア、メーカー、コンテンツプロバイダーだけでなく、アップル、グーグル、マイクロソフトなどの海外取材、執筆活動を行う。テレビやラジオなどでのコメント出演も多い。メルマガ「スマホ業界新聞」を配信中。

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…