東芝の西田厚聡(あつとし)氏と佐々木則夫氏の確執を報じる週刊現代2013年6月1日号の記事
東芝の西田厚聡(あつとし)氏と佐々木則夫氏の確執を報じる週刊現代2013年6月1日号の記事

政治・経済東芝問題リポート

東芝最大の謎、なぜトップ2人は対立したのか

編集部

第三者委報告書が明かさなかった謎(3)

 東芝の第三者委員会の報告書をめぐる最大の疑問は、西田厚聡(あつとし)氏、佐々木則夫氏という2人の元社長の対立について一切触れていないことだ。

 2人の対立が風評に過ぎないからだろうか。否。そんなことは決してない。2人の激しい対立は周知の事実であり、後述するが、東芝の株主総会で別の役員が株主に陳謝するという異例の事態にまで至っている。

 当編集部は、第三者委の報告書に書かれていないことにこそ、東芝不正の真実が隠されているのではないかと見ている。

 歴代社長が部下を繰り返し責め立て、利益の水増しを求め、組織的に不正会計が行われた。その背景に、東芝が2006年に買収した米原子力大手ウェスチングハウスののれん問題など、財務上の二つのアキレスけんがあったことをこのシリーズの第1回、第2回でリポートした。この財務上の問題は第三者委が「調査の対象外だ」として、報告書には盛り込んでいない。

 報告書に盛り込まれなかったトップ2人の対立も、不正問題に大きく影響したのではないか。対立の経過をもう一度振り返ってみよう。

一時は「蜜月」状態だった西田氏と佐々木氏

 今や重荷になっているとも言われるウェスチングハウスの買収を主導したのが、西田氏と、原子力事業部長を務めるなど原子力事業ひと筋に歩んできた佐々木氏だ。二人三脚で直接交渉に関わり、買収を成し遂げた。

2009年当時の会見で、東芝の新社長に決まった佐々木則夫氏(右)と握手を交わす西田厚聰氏
2009年当時の会見で、東芝の新社長に決まった佐々木則夫氏(右)と握手を交わす西田厚聰氏

 西田氏は09年、佐々木氏に社長を譲る。同年3月の交代会見で、佐々木氏を「東芝の原子力事業をグローバルに飛躍させた」と高く評価し、「私の右腕」と持ち上げた経緯がある。2人の「蜜月」の時代だ。

 この時期、リーマン・ショック後の需要減で、半導体価格が急落し、西田氏が掲げた選択と集中の2本柱のうち、半導体事業で巨額の赤字が出ていた。東芝は、もう一つの柱の原子力に頼らざるをえない事情があった。

 だが、蜜月は長く続かなかった。わずか4年後の2013年2月、佐々木氏が社長を退き、田中久雄氏が後任となる人事を発表した際、西田氏と佐々木氏は多くの記者の前で、互いを批判するような言葉を口にする醜態を演じてしまう。

 「一つの事業しかやっていない人が(会社全体を)見られるかと言えば、見られない」(西田氏)。「業績を成長軌道に乗せるという私の役割は果たせた」(佐々木氏)というやり取りだ。この辺りの事情は「元社長2人の対立で20万人東芝グループの危機」で書いたので、ここでは詳しく触れない。

社長罵倒の尋常でない週刊誌会長インタビュー

 しかし、2人の対立はこれだけにとどまらなかった。記者会見から3カ月後、週刊現代6月1日号に、東芝の社員が仰天する記事が掲載された。

 記事には「スクープ!『社長をクビにした理由』を本誌にぶちまけた! 東芝のサプライズ人事 西田会長がその全内幕を明かす」との見出しが躍っていた。

 記事中、西田氏が「佐々木を社長に指名したのは僕です。選んだ僕に責任がある。ただ、このままだと東芝の将来がとんでもないことになってしまうと思ったのも事実です。社長を新しい人にかえて、もう一度東芝の再生を図らないと、大変なことになってしまう」と語ったと書かれている。

 記事には、「西田を自宅で直撃すると、本誌の独占取材を受け入れた」と書かれ、「社内で会議ばかりやっている」「英語がろくに話せない」「利益を出しても日立には負けている」と、延々と佐々木氏に対する批判が続くのだ。

 週刊誌が発売された時、佐々木氏は6月末の株主総会後に副会長になることは決まっていたが、まだ社長だった。それをここまで批判する会長のインタビューが週刊誌に掲載されるのは尋常ではない。

株主総会で株主に陳謝する事態に

 ちなみに、記事によると、「僕は去年、株主総会が終わった時点で『来年は代わってもらうよ』と伝えたのです。しかし、本人は『あと1年やりたい』と言い出した。ところが彼は後任をちゃんと育てていなかった。人材育成もできていないのに、あと1年なんてありえませんよ」と西田氏が言ったと書かれている。

 東芝は03年に委員会設置会社となった。この制度では、社外取締役が主導する「指名委員会」が役員人事を決めることになっている。社外取締役が経営を監督する制度だが、そんな制度などまったく意に介していないように見える。

 その年6月の東芝の株主総会で、副社長が「ご心配をかけて申し訳ない」と株主に謝罪する騒ぎになった。

 企業社会では通常ありえない対立劇を繰り広げた西田氏と佐々木氏。09年から13年の間に何があったのか。この間、各事業部門の幹部は、2人から「チャレンジ」という言葉で過剰な利益を要求され、不正な利益水増しに走っていた。

 11年3月には福島第1原発の事故が起きた。「選択と集中」の2本柱のうちの1本が脱落し、残された原子力事業も原発事故で先行き不透明になった。東芝の経営に責任を持つトップ2人の対立は、そのことと無関係なのか。

 いずれにしても、トップ間の激しい対立、そのトップの熾烈(しれつ)な利益要求で幹部が組織ぐるみで不正に走る、という異様な事態が東芝を舞台に起きていたことが改めて明らかになった。

謎を残したままで、限界ある再発防止

 第三者委の報告書は、不正の背景には利益至上主義や、上司に逆らえない企業風土があったと指摘した。再発防止策として、役員や役職者の責任を問い、経営トップはじめ全役職員の意識改革を求めた。さらに、実力に即した予算策定をし、「チャレンジ」を廃止し、企業風土を改革すべきだと指摘した。

 だが、2人の激しい対立を改めて振り返ると、「利益至上主義」「企業風土」で片付けられない何かがあったと思えてならない。この謎を残したまま、東芝は再生に進むことができるのか。

記者会見で辞任を報告する東芝の田中久雄社長(右)。左は室町正志会長=東芝本社で2015年7月21日
記者会見で辞任を報告する東芝の田中久雄社長(右)。左は室町正志会長=東芝本社で2015年7月21日

 田中氏は21日の社長辞任会見で、「報告書で指摘されたことは真摯(しんし)に受け止める」と言いつつも、「私は不正な処理を指示した認識はありません」「私自身が誰かからプレッシャーを感じたという認識はありません」と、繰り返した。報告書の内容を否定するような言い分である。こんな主張ができるのは、報告書では東芝の本当の姿が描けていないからではないか。

 次回は、「東芝が抱える『アキレスけん』ウェスチングハウス」で触れた、東芝の財務上の問題について再び取り上げる。

 経済プレミアの連載「東芝問題リポート」を大幅に加筆・修正して緊急出版!

編集部

編集部

長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
twitter 毎日新聞経済プレミア編集部@mainichibiz
facebook 毎日新聞経済プレミア編集部https://www.facebook.com/mainichibiz

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…