城跡の見学会で説明をする小和田さん(中央)
城跡の見学会で説明をする小和田さん(中央)

社会・カルチャー戦国武将の危機管理

ゴマすりばかり周りに置くと城と会社は傾く

小和田哲男 / 静岡大学名誉教授

小和田さんに聞く戦国武将の魅力(3)

 連載「戦国武将の危機管理」の筆者、小和田哲男・静岡大学名誉教授へのインタビュー3回目は、戦国武将が支配下に置いた領国の経済政策を、禅宗の高名な師から学んだという話です。聞き手は今沢真・経済プレミア編集長です。

 −−戦国武将が「孫子」のような兵法書や「論語」で「いかに生きるべきか」を学んだという話を、第2回でうかがいました。それでは「領国経営」、いわゆる経済政策はどう学んだのでしょう。

武田氏支配の甲斐国で流通していた地方通貨・甲州金(碁石金と蛭藻金)=山梨県教委提供
武田氏支配の甲斐国で流通していた地方通貨・甲州金(碁石金と蛭藻金)=山梨県教委提供

 ◆小和田哲男・名誉教授 子供の時から、禅宗のお坊さんから習っています。例えば今川義元の場合は雪斎(せっさい)という有名なお坊さんが軍師であり、教育係であった。伊達政宗には、虎哉宗乙(こさい・そういつ)というお坊さんがいました。この人がいなければ、伊達政宗はあそこまでの武将にはならなかったと私は思っています。上杉謙信も、子供のころに天室光育(てんしつ・こういく)という人に習ったんです。

 −−小和田先生が時代考証を担当されたNHKの大河ドラマ「天地人」(2009年放送)では、上杉景勝と直江兼続が一緒に学んでいましたね。

 ◆景勝と兼続を育てたのは北高全祝(ほっこう・ぜんしゅく)です。みんな禅宗のお坊さんです。曹洞宗であったり、臨済宗であったり。

「ご意見番」が周りにいることの大切さ

 −−師となる人たちがいたわけですね。今の企業は先輩から仕事のやり方を学びます。役員になってもそうかな……。いわゆる「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」です。

 ◆それは戦国時代の人もやっています。いわゆる「武辺咄(ぶへんばなし)」というのがあるんですよ。先輩から「この戦いの時はこうやったから失敗した」「この時はこうやってうまくいった」みたいな。先輩の経験を聞いて、同じ過ちをしないようにとか、成功例を参考に自分はこう工夫しようとか。武辺咄は非常に盛んでした。

 −−企業の社長、会長とかトップになると、孤独というか、相談相手があまりいないことが多そうです。今いろいろな経済事件が起きています。戦国時代ほどではないけれど、ちょっと油断するとすぐ企業は転落していく。

 ◆いつか書きたいと思っているのですが、周りに「ちゃんとしたご意見番」がいるかいないかは大きい。武田信玄も「自分と同じ考えを持っている者ばかりを周りには置きたくない」と言ってるんですよ。「殿、これは違いますよ」と、耳の痛いことを言える人を周りに置くか置かないかは、非常に大きいと思うのです。

 私ども「寵臣(ちょうしん)」という言い方をしますが、周りにゴマすりばかりいる武将は、例外なく没落しています。厳しいことを言ってくれるナンバー2がいるかいないかは、大きい。

 −−武田信玄には「武田二十四将」という家臣団がいた。信玄は自らも周りに意見を言える人を置いていたということですね。個の力プラス組織の力ということですね。

 ◆そう。だからトップだけ優秀でも長続きはしません。周りを支えるナンバー2的な、補佐役的な者が相当数いないと。

勇壮に練り歩く武田24将騎馬行列=甲府市
勇壮に練り歩く武田24将騎馬行列=甲府市

 −−戦国時代は400年前から500年前ですが、いまの話は現代に通じますね。逆に、先生がいろいろ研究されて、これはやっぱり戦国時代に特有だな、理解できないしついていけない、という考え方はありますか。

 ◆そういう観点で考えたことはないですね……。

 −−「生きる」「死ぬ」を常に考えているとか。

「後世に恥ずかしい行為だけはするな」という教え

 ◆それはもう死生観は全然違います。当時の武士たちは、自分が死んでも、後世にどう評価されるかを気にしました。よく「名を残す」「名を上げる」と言いますね。「名」というのは自分の武名であると同時に、小和田なら小和田家という家名でもある。

 いろんな武将たちの遺言状を分析しているんですけど、「後世に後ろ指をさされるようなことはするな」ということがよく書かれています。「後世の恥辱如何(いかん)は」という言い方をしています。

 −−「恥」ということですね。

 ◆変なことをやって偉くなっても、それがもし「恥」のような行為であれば、後世からは評価されないから気をつけろ、という言い方です。

 −−息子や孫の代に言い伝える遺言ですね。

 ◆そう。遺言状、おもしろいと言うと怒られるけれど、いろんな文面が出てきますのでね。おいおい、そういうのも紹介したいと思っています。

 <次回は8月19日に掲載します>

経済プレミア・トップページはこちら

小和田哲男

小和田哲男

静岡大学名誉教授

戦国大名・今川氏のお膝元で、徳川家康の隠居先でもあった静岡市で1944年に生まれる。72年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は日本中世史。戦国時代史研究の第一人者として知られ、歴史番組でおなじみの顔。趣味は「城めぐり」で、公益財団法人「日本城郭協会」の理事長も務める。主な著書に「戦国の群像」(2009年、学研新書)、「黒田官兵衛 智謀の戦国軍師」(13年、平凡社新書)。公式サイト https://office-owada.com

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…