青春小説の系譜

村上春樹「ノルウェイの森」 死と生のはかなさ

鶴谷真・毎日新聞学芸部記者
  • 文字
  • 印刷
作品に登場する井の頭公園=東京都武蔵野市
作品に登場する井の頭公園=東京都武蔵野市

 「僕」は直子に一緒に暮らそうと誘う。<直子は僕の腕にもっとぴったりと身を寄せた。「そうすることができたら素敵でしょうね」と彼女は言った>。恋人の喪失に苦しむ直子と、彼女を愛する「僕」ことワタナベ。「僕」は一方で、元気かつ苦労人の緑とも愛し合う。若い生と死を切々と描くのが村上春樹「ノルウェイの森」(1987年)だ。

 「僕」は高校3年の5月、親友のキズキを失う。自死だった。そして大学に入ってまもない翌年5月、東京の中央線の車内でキズキの恋人だった直子とばったり出会った。そして東京の街を連れ立って歩き回るようになる。同い年の「僕」とキズキと直子は高校時代、3人で親しく遊んだ仲だった。今や直子は心に深い傷を負い、暗闇をさまよっている。

 死が満ちている。直子は、キズキ以前に姉をやはり自死で亡くしている。直子の父の弟もずっと昔に電車に飛び込んだらしい。「僕」が住む学生寮の先輩・永沢さんの恋人のハツミさんも後に自死する。東京の大学を休学して京都の山中の療養所「阿美寮」へ移った直子は、果たして回復するのだろうか……?

この記事は有料記事です。

残り1325文字(全文1783文字)

鶴谷真

毎日新聞学芸部記者

1974年、神戸市出身。2002年毎日新聞社に入社し、岡山支局、京都支局を経て08年に大阪本社学芸部。13年秋から東京本社学芸部。文学を担当している。