中国経済の実態について解説する富士通総研の柯隆(か・りゅう)・主席研究員
中国経済の実態について解説する富士通総研の柯隆(か・りゅう)・主席研究員

政治・経済経済プレミアインタビュー

企業にブランド力がないのが中国の弱さだ!

編集部

 中国経済の実態について、不透明感が広がっている。富士通総研の柯隆(か・りゅう)・主席研究員(51)は、「中国の企業はブランド力がなく、自前の技術がない」と中国産業界の問題点を指摘し、市場を独占する国有企業の民営化がどうしても必要だと強調する。柯隆氏のインタビューを3回に分けて掲載する。【聞き手は今沢真・経済プレミア編集長、写真は川村彰】

中国経済の実態は? 柯隆氏に聞く(1)

 ──中国経済の現状ですが、中国政府は実質国内総生産(GDP)の7%成長を目標としていますが、その半分にもいっていないとの見方が台頭しています。

 ◆柯隆さん 多くの論者が7%ないと見ています。ただ、論拠が示されていない。もともとの数字も、それを否定する論調も信用できないので、その論拠を明らかにしましょう。

 今のマクロ経済統計は本来、改ざんするのが非常に難しいんです。一つの数字を動かすと全体が狂ってしまう。水増ししようと思っても、相当な知識がないとできないんです。中国経済の成長率のどこがいじられているか。

 GDP統計はまず、名目GDP値を出し、それを、GDPデフレーターという指数で割り引いて「実質GDP」を出します。GDPデフレーターは経験値で、実際は、消費者物価指数(CPI)で計算されている。通信費、食品、交通費、住居費といった10くらいの部門に分けてウエートづけして計算するんですね。最も物価上昇率が激しいのは食品ですが、中国の場合、食品のウエートが過小評価され、CPIで約2ポイントくらい低くなっているんです。実質GDPが7%と公表されたときに、今言ったCPIで計算すると5%くらいになる。

経済構造がゆがんでいる

 ──となると、実質GDPは常に中国政府が出している数字より大きく下回っているということになりますね。

 ◆柯隆さん そうです。今の中国経済の状況はとてもよくない。構造がゆがんでいるんです。設備投資に依存していて、輸出と国内消費で稼ぐモデルなのですが、輸出が大きく落ち込んでいるんですよ。消費もされていないんですね。

「路上株式サロン」で株の情報交換をする中国の個人投資家ら=上海で2015年8月30日、林哲平撮影
「路上株式サロン」で株の情報交換をする中国の個人投資家ら=上海で2015年8月30日、林哲平撮影

 「中国人は日本に爆買いに来ているんだから、中国で消費するだろう」と思われるかもしれませんが、全くの誤解です。中国から日本に来るのは最も購買意欲のある富裕層です。でも、ミドルクラス以下の人が6割くらいいて、所得は増えていない。買い物したいけど、買うお金がない。それで消費が伸びない。在庫はそれほど抱えていませんが、問題は過剰設備なんです。

 ──過剰設備をどうしてそんなに抱えたのでしょうか。

 ◆柯隆さん 高成長を目指してきたからです。それと、問題は国有企業です。合理的な経営をしていない。投資して成長さえすれば、あとは何とかなるだろうという安易な考え方で投資を増やしてきた。それが稼働していない。

 もう一つが労働力の問題です。人口が減って高齢化が進んでいる。労働力の供給も減っていくわけですよ。

 中国はアパレル産業が盛んだった。ユニクロのファッション製品の製造を受託するような産業です。でも人件費が上がり、中国を離れて、東南アジアにシフトされる場合もあります。その場合、たくさんの単純労働力がレイオフ(一時解雇)される。でも、車を運転できない人は物流はできないし、いきなりIT産業で働くこともできない。中付加価値、高付加価値の産業が募集しても人材が集まらない。低付加価値の部門では失業者が膨らむといった、構造的なゆがみが生じてくるわけです。

イノベーションをしない国有の独占企業

中国経済の問題点を指摘する富士通総研の柯隆(か・りゅう)・主席研究員
中国経済の問題点を指摘する富士通総研の柯隆(か・りゅう)・主席研究員

 日本は、昭和40年代、50年代に松下電器、ソニー、トヨタといったブランドが確立した。中国はいま、世界で2番目の経済力だけど、ブランド力はない。「家電のハイアールがある」というけど、もともとの技術は松下電器から移転を受けているので、自前の技術はそんなにない。

 ブランド力がなんで出てこないか。イノベーションをやらないから。国有企業はマーケットを独占して利益が入ってくるので、イノベーションはやらないんです。

 それと、知的財産権が保護されていない。せっかく一生懸命研究して技術開発した瞬間、他社にコピーされてしまう。いっそやらないほうがいい。だれもイノベーションをしない。これが、生産性が上がらない一番の背景なんです。だから知財権を保護して国有企業を解体、民営化することがどうしても必要になってくるんです。

略歴

柯隆(か・りゅう)/富士通総研主席研究員

1963年中国・南京市生まれ。88年に来日し、92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。2006年より現職。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授、広島経済大学特別客員教授を兼務。著書は「チャイナクライシスへの警鐘」(日本実業出版社)など多数。

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編集部

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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