スキル・キャリア部下を伸ばす上司 ダメにする上司

どんな仕事にも「大宴会と打ち上げ」が必要だ

細川義洋 / ITコンサルタント

 ITシステムの導入は、「Never Ending Project」(終わりなきプロジェクト)と言われます。建設業界で新しいビルが完成すると、施主と建設会社が笑顔で握手を交わすでしょう。商社で企画した商談がまとまれば、関係者が集まって祝杯をあげるはずです。

 しかしIT業界は、システムが本格的に稼働しても多くの課題が残ります。開発に一区切りついても、技術者が達成感や満足感を得づらい環境なのです。不具合の解消や追加開発の仕事が続くので、喜びに浸る余裕はありません。

感情の起伏のない職場では社員が辞めやすい

 本稼働時だけではありません。ITシステムは、発注側への提案時からすでに開発が始まっています。受注後、いざプロジェクトが始まっても、「よし、やるぞ!」と気分が上がることがあまりありません。作業中に大問題が発生しても、「そんなこともあるよね」と冷静に受け止めてしまいがち。つまり、仕事にまつわる感情の起伏が少ないのです。

 業界の特徴と言ってしまえばそれまでですが、上司の立場で見れば問題です。喜んで仕事に取り組み、問題に対して大いに悩み、最終的に達成感を得るプロセスが、部下の持つ力を最大限に引き出し、成長を促すからです。

 仕事に対して無感動な日々を送る人は、会社を辞めてしまうことがあります。仕事はそつなくこなすのに、ITに対する興味を失って他の業界に転職した人を何人も見てきました。最も多いのは、「仕事がキツい」「待遇に不満がある」ではなく、「仕事がつまらない」です。会社にとっても上司にとっても対応が限られるため、たちの悪い話です。

「仕事がつまらない」と思わせない大げさなイベント

 あるソフトウエア開発会社は、社員の退職を防ぐため、ある工夫をしていました。プロジェクト開始時やその途中、終了時などのタイミングに、「わざとらしいイベント」を催すのです。

 開始時は、メンバー全員を集めて大宴会をします。そして、プロジェクトがある程度進んだ段階で、メンバーに自社の取締役会で状況報告をさせます。その際、社長が必ずねぎらいの言葉をかけます。プロジェクト終了時には、問題山積の状態でも盛大に打ち上げを行い、後日、社長が感謝状を手渡します。感謝状はプロジェクトが失敗しても出るそうです。

 社内の誰もが、こうしたイベントを大げさだと思っているそうです。しかし、仕事を続ける社員の心に抑揚をつけ、感情の起伏を生み出してもいます。つまり、日々同じような仕事を繰り返す社員の心にアクセントとリズムを作り、プロジェクト開始時の覚悟と終了時の達成感を演出するのです。

 この会社は社員の定着率が高いのですが、退職する技術者も多少います。しかし、その多くはIT業界内で転職をするそうです。「仕事がつまらない」と思っている人は少ないのでしょう。

 <「部下を伸ばす上司 ダメにする上司」は毎週火曜日掲載です。次回は11月3日です>

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細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

1964年、神奈川県生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、日本IBMでシステム開発やコンサルティングを行う。著書に「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」「IT専門調停委員が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則」(日本実業出版社)などがある。

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