垂直軸型マグナス風力発電機のプロトタイプとチャレナジーの清水敦史社長(左)と小山晋吾取締役
垂直軸型マグナス風力発電機のプロトタイプとチャレナジーの清水敦史社長(左)と小山晋吾取締役

IT・テクノロジー躍動する科学ベンチャー

台風で電気「垂直軸型マグナス風力発電」のすごさ

丸幸弘 / 株式会社リバネス最高経営責任者

対談:チャレナジー・清水社長×リバネス・丸CEO(1)

 科学ベンチャーの最前線を探る連載第6シリーズは、風車型風力発電機のイメージを覆す新型機開発を目指す「チャレナジー」を取り上げる。清水敦史社長は大手電機メーカー・キーエンス出身。在職中に独力で特許を取得した「垂直軸型マグナス風力発電機」をベースに、新しい発電機を開発している。リバネスの丸幸弘・最高経営責任者(CEO)との対談を4回に分けてお送りする。【司会・構成、田中学】

 ◆リバネス・丸幸弘CEO チャレナジーは、たった3人で全く新しい風力発電機の開発に挑んでいる開発型ベンチャーです。狭き門である、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の起業家候補支援の対象に選ばれており、エネルギー分野で、大げさに言えば「国策的」な事業に発展する可能性があると私は期待しています。

 ◆チャレナジー・清水敦史社長 私たちが開発を進める「垂直軸型マグナス風力発電機」は、実は100年以上の歴史がある風力発電のあり方を大きく変えていきます。まだ乗り越えるべき壁はありますが、実現すれば「台風発電」や都市での発電が可能となり、再生可能エネルギーが主力となる世の中づくりに貢献できます。

※株式会社リバネス:2001年創業。社員約50人のほとんどが理系の修士・博士号取得者。企業と連携し、科学をベースにした新しいビジネス創出に力を入れる。本社・東京都新宿区。

※清水敦史(しみず・あつし):1979年、岡山県生まれ。05年に東京大学大学院修士課程を修了後、大手電機メーカー・キーエンスで自動制御機器の研究開発に従事。独力で「垂直軸型マグナス風力発電機」を発明し、14年3月の第1回テックプラングランプリ最優秀賞を受賞。同年10月にチャレナジーを設立。

※株式会社チャレナジー:14年10月設立。次世代風力発電機の事業化を目指す研究開発型ものづくりベンチャー。浜野製作所(東京都墨田区)などの支援で試作機を開発、台風の膨大なエネルギーを電気に変える「台風発電」の実証実験を来年夏に予定している。本社・東京都墨田区、役職員3人。

プロペラのない新しい形の風力発電機

 ──まず、この「垂直軸型マグナス風力発電機」とは何でしょうか。

 ◆丸 風力発電機なのに風車のような羽根がない。しかも、日本では現状、再生可能エネルギーといえば太陽光がメインですが、それも国内の電力需要の総量から見たら微々たるもの。その状況で風力発電機で勝負するのですから、画期的な技術なんですよね。

チャレナジーの清水敦史社長
チャレナジーの清水敦史社長

 ◆清水 そうですね。一般的に目にする水平軸の風車型発電機では困難な「台風発電」や、都市での発電も理論的に可能です。回転軸の向きに関する「水平軸/垂直軸」という軸と、羽根に関する「プロペラ/マグナス」という軸で四つの枠の図があるとすると、「垂直軸・マグナス」の部分だけまだ実現されていません。ここに大きな可能性があるんです。

 ◆丸 マグナスは、「マグナス力」のことで、一般的には飛行機の翼に働く「揚力」ですよね。

 ◆清水 はい。二つの物理公式は同じです。ドイツ人のマグナスという科学者が大砲の弾が狙いから外れる仕組みを研究する過程で発見しました。野球のカーブボールと同じ原理です。

マグナス力が発生する仕組み
マグナス力が発生する仕組み

 カーブボールは、ピッチャーが投げたボールがキャッチャーのミットに向かっていく間、ボールが横回転しながら向かい風を受けることになります。すると、風向きに対して垂直の方向に力が発生するんです。これが「マグナス力」で、飛行機の翼に働く揚力よりも大きく、回転が速いほど強く作用します。

垂直の棒を回転させて発電

 ──物理の講義ですね(笑い)。そのマグナス力をどのように活用するのですか。

 ◆清水 私たちが開発する発電機でマグナス力が作用するのは、地面に対して垂直に立てる円筒棒です。上から見ると中央の軸を中心にいくつかの円筒棒が配置されます。回転する円筒棒が風を受けて発生するマグナス力の作用で、円筒棒を支える軸が回ることで発電するんです。

 ◆丸 清水社長の説明は簡単に聞こえるかもしれません。しかし、複数の大手企業も研究していたのですが、実用化に至っていないんですよね。

 ◆清水 複数の企業が垂直軸型マグナス風力発電機の特許を出願していますが、いずれも特許化されておらず、現時点では製品化もしていません。風向の変化に対応できないなどの課題があったのではないかと思います。当初、私も独力で同様に特許出願したうえで特許化し、プロトタイプを作って動かすことができました。

 ただ、会社を辞めて起業したのですが、私の特許の形式では思ったような結果が出なかった。次回以降に詳しくお話ししますが、現在のものはいったんゼロから作り直して大幅な効率向上を達成したタイプです。

マグナス力について説明するチャレナジーの清水社長
マグナス力について説明するチャレナジーの清水社長

 ──一筋縄ではいかなかったわけですね。いざ稼働すると、どれくらいの大きさでどれほどの電力を得られるのでしょうか。

 ◆清水 最初に、高さ3メートルほどの発電機を作りたいと思っています。これ1台で1〜2キロワットの発電ができる見込みです。日本の一般的な家庭1軒分をまかなえます。ヨーロッパで普及している60メートルクラスの巨大な風力発電機は1基で1メガワット、一般家庭の数百軒分に相当します。将来的には、それ相当の電力を得られる大きさにしていく予定です。

リバネスの丸幸弘CEO
リバネスの丸幸弘CEO

 ◆丸 日本では風車型の風力発電機を設置するには条件が悪いんですよね。

 ◆清水 そうなんです。日本は季節によって風向きが変わり、風速もバラバラ。それに台風も来ます。ヨーロッパのようにおおむね一定方向から一様な風が吹くわけではありません。実は風車型は、例えば風速25メートル以上になると羽根が回転しないように止めてしまいます。そうでないと「暴走」状態になって、羽根が破壊されるなど大きな損害を被る場合があります。騒音やバードストライクといった問題もあります。

 ──「垂直軸型マグナス風力発電機」であればそこを解決できる、ということですね。次回、詳しくお聞かせください。

 <次回は「ビル屋上にも設置できるマグナス発電の大きな夢」です>

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(2)ビル屋上にも設置できるマグナス発電の大きな夢

(3)福島原発事故が踏み切らせた「新電力」への挑戦

(4)「ガレージスミダ」が打ち上げる下町ベンチャー

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丸幸弘

丸幸弘

株式会社リバネス最高経営責任者

1978年神奈川県生まれ。東京大学大学院在学中の2002年6月にリバネスを設立。「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化した。大学や地域に眠る経営資源や技術を組み合せて新事業のタネを生み出し、200以上のプロジェクトを進行させている。著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』(日本実業出版社)がある。

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