
白石一文の「光のない海」(集英社)は友人に薦めたくなる長編小説だ。このサイトでは、大人の読者に読んでほしい本を選んでいるのだが、今回も自信を持って取り上げられる一冊に恵まれてうれしい。
主人公は50歳社長。うつになったり性的不能に陥ったり
主人公は50歳。建材卸会社の社長をしている。社長になって10年。500人以上の従業員を抱える中堅企業のトップとして、緊張の解けない日々を過ごしている。
それだけではない。仕事以上に個人生活でも、ダメージを受けたり、苦労したりすることが多い半生を送ってきた。では不幸を避けられたかというとそうではない。振り返っても、自分ではいかんともしがたく、そうなってしまう道のりを歩んできたのだ。
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重里徹也
文芸評論家、聖徳大教授
1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。