アメリエフの山口昌雄社長(左)とリバネスの丸幸弘CEO
アメリエフの山口昌雄社長(左)とリバネスの丸幸弘CEO

IT・テクノロジー躍動する科学ベンチャー

生命情報分析のプロ「アメリエフ」が目指す健康社会

丸幸弘 / 株式会社リバネス最高経営責任者

対談:アメリエフ・山口×リバネス・丸CEO(1)

 科学ベンチャーの最前線を探る連載第8シリーズは、高度な遺伝子データ解析技術で、医療・バイオ(生命・生物)研究の効率化を支える「アメリエフ」が登場します。バイオインフォマティクス(生命情報分析)市場に切り込む同社の山口昌雄社長と、リバネスの丸幸弘・最高経営責任者(CEO)の対談を4回に分けてお送りします。【構成・サイエンスライター本丸諒】

 ◆リバネス・丸幸弘CEO 生命情報学分野では、膨大な量の遺伝子データを扱います。ヒトの遺伝子一つの30億文字からいかに素早く、的確に研究者の意図に沿って質の高い解析結果を出せるか。この分野で定評あるのがアメリエフです。紆余(うよ)曲折の人生を送ってきた山口社長の人となりも交えて、技術力から志までお話を聞きたいと思います。

 ◆アメリエフ・山口昌雄社長 2009年の起業以来、技術力で絶対的な自信があり、医療への貢献に自負もあったものの、ビジネス的には乱高下の連続でした。15年に「第二の創業」として当社が大きく変わるきっかけになったのがリバネスと丸CEOです。生命情報分析業界と当社の役割をお伝えします。

※株式会社リバネス:2001年創業の知識プラットフォームベンチャー。社員約50人のほとんどが理系の修士・博士号取得者。企業と連携し、科学をベースにした新しいビジネス創出に力を入れる。本社・東京都新宿区。

※アメリエフ株式会社:2009年7月設立。生命・生物研究データの解析、システム開発、バイオインフォマティクスの導入支援、人材教育を行い、研究者の研究効率の向上に寄与している。本社・東京都千代田区。

※山口昌雄(やまぐち・まさお):1976年、東京都生まれ。99年城西大学理学部卒業。2000年理化学研究所遺伝子多型研究センター入所、パリ第6大学留学などを経て、07年京都大学医学系研究科博士後期課程修了。09年アメリエフ設立。

フランス留学での経験が起業のきっかけ

 ──山口社長はフランス留学中に、日本とフランスでの研究者の仕事の仕方、効率の違いを強く感じたということですが、何が特に違うのでしょうか?

 ◆山口 日本では研究者もビジネスパーソンも、がむしゃらに働いて残業をよしとする風潮があり、仕事自体が人生の目的になっている。ところが、フランス人の目的は明確に「人生を楽しむ」こと。仕事は生きるための手段にすぎないから、効率よく働こうとします。短時間で最大の成果を出す。ダラダラ働いたり、残業したりしません。

 ◆丸 もう一つ、日本では全部、個々人で処理しようとする傾向がある。人に任せないんです。ところが、遺伝子データは膨大で、すべてを自らやろうとすると無理があり、仕事の効率が悪くなります。カイゼンをしないと……。

 ◆山口 そんな研究者を「遺伝子データ解析のプロ集団」が助けるという発想で、当社をつくりました。社名は、「効率をあげる」という意味のフランス語がもとです。

 ◆丸 バイオや医療研究の最終目的は「生命とは何か」を明らかにすること。「他の研究室より早く成果を出すぞ」という競争意識も大事ですが、特に医療研究者のゴールは、ヒトの遺伝子とは何か、人とは何かを解明し、結果として病気を治したり、薬をつくったり、健康にしたりすることですよね。それを支援するのがアメリエフです。

 ◆山口 研究の世界は昔からデータが貴重で、研究室内で得たデータは門外不出という考え方が一般的でした。それが2000年以降、がらっと変わりました。最近では、「研究データはオープン」が当たり前で、世界中の誰もが見える形にしないと論文が通らなくなっています。

アメリエフの山口昌雄社長
アメリエフの山口昌雄社長

 ──2000年ごろ、何があったのでしょうか?

 ◆丸 ヒトゲノム解析ですよね。

 ◆山口 ヒトゲノムの完全解析は03年とされています。その前後から、ゲノムデータは個人情報が関わる部分以外、すべて公開が原則となりました。誰もがデータを検証でき、ウソや捏造(ねつぞう)が起きないようにする。その方が、全世界の研究効率も上がります。ヒトゲノム・プロジェクトは13年の歳月と、数千億円という費用をかけて得られた人類共通の知見です。今では、さまざまな生物種のゲノムデータが公開されていますし、研究成果も公開されています。

リバネスの丸幸弘CEO
リバネスの丸幸弘CEO

「バイオ+IT」の人材を育成する

 ◆丸 アメリエフが09年に創業した時には、バイオインフォマティクス(生命情報分析)を事業にする企業はほとんどありませんでしたね。つまり、生命・生物現象をコンピューターやITの力で解明していこう、あるいは遺伝子レベルの膨大なデータをコンピューターで解析解釈して、人の健康に貢献しようという企業です。

 ◆山口 当時、バイオに詳しい人、ITやコンピューターに詳しい人はそれぞれたくさんいましたが、両方がわかる人はほとんどいませんでした。私がこの業界に入った2000年時点でも「バイオ+IT」の人材が不足していると言われていて、09年の創業時もほとんど変わりませんでした。そのような人材の養成場所さえ少なかった。

 ◆丸 山口社長の創業前の07年ころから、日本バイオインフォマティクス学会が「技術者認定試験」を始めました。リバネスもこの認定試験の普及を手伝ったんです。当時は国家をあげて、「バイオ+IT」がわかる人材を育てようと喧伝(けんでん)された時期でした。人材養成の意味で、山口社長はベストなタイミングで起業した。ただ、ビジネスとして見ると「どうやって食うの?」と言われることが多かったと思います。

 ◆山口 1990年代末に一度、生命情報分析関連の会社数が急増した時期がありました。マイクロアレイという大規模な解析を一度にできる技術で、遺伝子のデータ解析をするニーズが高まったからです。当時、世界中の有名な遺伝子解析ソフトウエアを輸入して、販売代理をする仕事が増えていたのですが、いったん下火になりました。

 その後、解析を効率的に行える次世代シーケンサー(解析器)が登場し、再び、生命情報分析市場が盛り上がりました。そのための有料ソフトもありましたが、無料で公開されているオペレーティング・システムのリナックス上で解析ソフトをつくり、それを公開する流れが中心になりました。このため、研究室内で自分で開発できる環境が整ってきました。

 ──研究者は、リナックスもプログラミング言語もできないといけないわけですか。

 ◆山口 無料でできる環境が整ったけれど、研究者が自分でやろうとすると大変です。プログラマーに任せても、彼らはデータを理解することはできますが、バイオがわからないので、作業の意味がわからないから良いデータ解析ができない。バイオとコンピューターを使いこなせる二刀流の人材が不可欠になっていた状況でしたね。

 ──次回は、アメリエフが果たす役割についてお教えください。

アメリエフは「遺伝子データ解析のプロ集団」としてバイオや医療研究を支えている
アメリエフは「遺伝子データ解析のプロ集団」としてバイオや医療研究を支えている

 <次回【「30億分の1の違い」からがん発生確率を探る神業】は2月17日掲載です>

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丸幸弘

丸幸弘

株式会社リバネス最高経営責任者

1978年神奈川県生まれ。東京大学大学院在学中の2002年6月にリバネスを設立。「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化した。大学や地域に眠る経営資源や技術を組み合せて新事業のタネを生み出し、200以上のプロジェクトを進行させている。著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』(日本実業出版社)がある。

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