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「購入補助縮小」でスマホ料金は高くなる?

北俊一 / 野村総合研究所上席コンサルタント

 総務省は2月2日、スマートフォン端末購入補助の適正化に関するガイドライン案を公表し、現在パブリックコメントを募集している。

 ガイドライン案は、総務省が昨年12月18日に公表した「スマートフォンの料金負担の軽減及び端末販売の適正化に関する取組方針」の運用ルールを明確にしたものだ。そこでは、スマホの実質負担額を軽くするためのあらゆる補助を縮小するよう、通信事業者に求めている。

あらゆる「スマホ購入補助」縮小へ第一歩

 ガイドライン案公表に先立ち、全国のケータイショップでは2月1日から、スマートフォンの実質負担金が「ゼロ円をくぐる」、つまりキャッシュバックがあるような過度な端末購入補助はほぼ姿を消し、販売適正化に向けて大きな一歩踏み出している。

 そして、今回のガイドラインのポイントは次の3点だ。一つ目は「端末購入補助」を次のように定義したことだ。

 「スマートフォン購入を条件として提供される通信料金またはスマホ購入代金の割引と、金銭その他の物品などの経済上の利益、事業者が販売店のスマホ販売に応じて支払う金銭」

 つまり、端末の直接的な値引きやキャッシュバックはもちろん、月々サポートなどの通信料金値引き、商品券やポイントなどの還元、物品の特典や値引き、光ファイバーや電力・ガスなどの値引き、販売代理店による独自の値引きもすべて「補助」と見なしている。

 また、各社が発表したデータ増量プランについても、「スマホ購入を条件としたデータ通信量の増量については、データ通信量の増量を受けた後のデータ通信量を利用する場合に要する最も低廉な料金額との差額を、端末購入補助に含むものとする」としている。つまり、毎月数ギガバイト(GB)を一定期間増量する特典も、端末購入の補助に含めたということだ。

 ガイドライン案公表直前にソフトバンクが発表した「ギガ学割」に追随し、各社が同様のデータ増量プランを出したことに対応したものだ。

利用者に合理的な負担を求める

 二つ目は、端末購入補助の縮減の考え方を明確に示したことである。

 「事業者は、スマートフォンを購入する利用者には、端末を購入しない利用者との間で著しい不公平を生じないよう、合理的な額の負担を求めることが適当である。このため、契約種別(MNP、新規契約、機種変更)や機種によって著しく異なる端末購入補助を縮小し、利用者の負担が合理的な額となるようにする」

 これまで、同じ料金プランで同じ端末を購入する場合でも、機種変更とMNPでは、端末購入補助に大きな差があった。これを是正せよ、ということは、MNPの端末補助の水準を、圧倒的に多い「機種変更」の水準に近づけるということであり、端末購入補助の総額が減ることになる。

 三つ目は、型落ち端末の扱いについてである。

 「在庫端末の円滑な販売が必要な場合、または携帯電話の通信方式の変更を伴う場合には、スマートフォン価格に相当するような行き過ぎた額とならない範囲で、端末購入補助を行うことができる」

 発売から一定期間を経過したいわゆる型落ち端末の扱いについては、その定義が難しいことから、端末の新旧を問わず、端末価格を上限とした値引き、つまり、実質ゼロまでの値引きを可能とした。これによって、ガイドラインが有効となる4月1日以降は、すべての端末の実質負担金はゼロ円以上になる。

携帯販売適正化への1合目になるか

 一方で、ガイドライン案にはいくつか穴がある。その一つが端末下取りについてだ。端末購入補助の中に、端末の引き取りを条件としたスマホ購入代金の割引は含まない、とされているからだ。このままでは端末下取り競争が進みかねない。パブリックコメントを受け、ガイドラインがより実効性の高いものとなることを期待したい。

 事業者には、ガイドラインの穴を探してそこを突き、端末購入補助を増額させるということにエネルギーを注ぐのではなく、ガイドラインの本来の目的の達成、すなわち、端末の価格競争から、多様なサービスの創出による競争にエネルギーを注いでほしい。

 首相の携帯電話料金値下げ指示に端を発した一連の政策は、現時点では、ライトユーザー向けの料金プランと、端末購入補助の是正(実質負担金の上昇)といった形でしか表れてきていないため、「一体“誰トク”なの?」「改悪だ」といった声も聞こえる。

 しかし、料金値下げの原資を作るために、端末購入補助を一気に縮小すれば、端末価格が一気に上昇し、それこそ「官製不況」と言われかねない。そこで、一定の時間をかけて、徐々に端末購入補助を小さくするよう、事業者には最大限の配慮をしている。それゆえ、料金値下げなどのユーザー還元も、今後段階的に行われていくことになる。携帯電話販売の適正化と携帯電話料金の値下げは表裏一体だ。少し長い目で見守りたい。

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北俊一

北俊一

野村総合研究所上席コンサルタント

1965年、横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。90年株式会社野村総合研究所入社。四半世紀にわたり、情報通信関連領域における調査・コンサルティング業務に従事。専門は、競争戦略、事業戦略、マーケティング戦略立案及び情報通信政策策定支援。総務省情報通信審議会専門委員。

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