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官僚的なるものとの対決 「天才」角栄の魅力を描く

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
「天才」(幻冬舎)は、田中角栄氏が一人称で生涯を振り返る小説だ=1972年12月撮影
「天才」(幻冬舎)は、田中角栄氏が一人称で生涯を振り返る小説だ=1972年12月撮影

 西郷隆盛、乃木希典、田中角栄。戦後を代表する思想家、吉本隆明が日本の近代史を考えるうえで、最も重要な人物として挙げたのが、この3人だった。

 私が「西郷より大久保利通の方が大きな役割を果たしたのではないですか」と尋ねても、「軍人としては乃木より児玉源太郎の方が有能だったでしょう」と話しても、吉本は笑って首を横に振るだけだった。

 私は毎日新聞に勤めていた2000年代の前半、同僚の記者と2人で2週間に1度、東京・本駒込にあった吉本の自宅に通い続けた。それは2年以上続いた。吉本に日本の文学作品を語ってもらい、聞き書きする新聞連載のためだった。今では2冊の新潮文庫になっている。

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文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。