青春小説の系譜

中上健次「十九歳の地図」が描いた屈折と野望

鶴谷真・毎日新聞学芸部記者
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 <僕は十九歳だった。予備校生だった>。熱烈なファンに読み継がれている中上健次(1946〜92年)の出世作が、73年に文芸誌に発表した短編「十九歳の地図」(単行本は翌年刊行)である。受賞には至らなかったものの芥川賞候補になった。青春の入り口での屈折を執拗(しつよう)に描き、読後感はじっとり重い。

何事かを成したいが将来は見えないもどかしさ

 主人公の「ぼく」は新聞配達の予備校生だ。といってもほとんど予備校には通っていない。仮に大学に行っても<四年間遊び呆けるか、ゼンガクレンに入って殺すの殺されるのとまともに働いてきている人間だったらきくにたえない痴話喧嘩のような言葉を吐きあい、けろっとして一流会社に入るかだ>と考えて受験を放棄。何事かを成し遂げたいのだが、具体的な将来像を描けない。朝刊と夕刊を配達し、集金に回り、ごみ箱のように汚れ放…

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鶴谷真

毎日新聞学芸部記者

1974年、神戸市出身。2002年毎日新聞社に入社し、岡山支局、京都支局を経て08年に大阪本社学芸部。13年秋から東京本社学芸部。文学を担当している。