スキル・キャリア部下を伸ばす上司 ダメにする上司

いやな仕事でも心が折れない部下のプライドの育て方

細川義洋 / ITコンサルタント

 2020年東京オリンピック・パラリンピック開催期間とその前後、メイン会場の新国立競技場近くの神宮球場に、大会役員やボランティアの待機施設と、資材置き場を設置する構想があるといいます。その間、プロ野球や学生野球をどこで開催するかで関係者が協議を続けています。52年ぶりに開かれる大イベントですから、最終的に神宮球場は協力せざるを得ないでしょう。

更地となった新国立競技場建設予定地(中央)と神宮球場(中央奥)=東京都新宿区で2015年12月21日、徳野仁子撮影
更地となった新国立競技場建設予定地(中央)と神宮球場(中央奥)=東京都新宿区で2015年12月21日、徳野仁子撮影

 ただ、理屈はわかっても、甲子園球場と並ぶ野球の聖地とされる神宮球場のグラウンドを資材置き場などにされることに、切なさを覚える人も少なくないはずです。駒沢大野球部の主力選手として活躍した野球評論家の中畑清氏の「神聖な球場が物置にされるなんて、想像したくない」という言葉には、学生時代に応援団として同球場のスタンドに立った筆者も、同意するところです。

仕事へのプライド消失に注意

 本意ではない行動を全体のためにしなければならないのは、ビジネスの現場でもよくあることです。IT業界では、顧客のせいで納期が遅れても、開発業者が頭を下げて責任を取ることは日常茶飯事。突然の機能追加があっても、椅子を蹴って帰りたいところを「お任せください」と作り笑顔で答え、徹夜続きで対応することもしばしばです。

 上司は、時にそうした対応を嫌がる部下にも、意に沿わない指示をしなければなりません。「顧客が悪い。自分たちは被害者だ」と部下たちが訴えるのをなだめつつ、「商売だから、ここは一つ大人になって……」ととりなす。切ないことですが、組織全体のことを考えれば、そうせざるを得ません。

 こうしたケースで注意すべきなのは、部下が仕事へのプライドを失ってしまうことです。譲りたくないことを譲り、下げたくもない頭を下げ続けていれば、徐々にプライドを失い、自身を過小評価するようになってしまいます。一種の自己暗示です。

誰にでも頭を下げる営業マンが持っていた誇り

 筆者がシステムエンジニアだったころ、ある営業の先輩が取ってきたシステム開発を担当しました。その開発は、顧客のわがままのせいで大幅に遅れたのですが、先輩は顧客に開発遅延のわびを入れ、さらに、10歳以上年下の筆者に「顧客をうまくリードできなくてごめん」と頭を下げたのです。

 かえって恐縮しましたが、なぜ先輩は、簡単に頭を下げられるのかと不思議に思いました。先輩は一番の被害者です。開発遅延の非はわがままな顧客か、それに対応できない筆者にあるはずだからです。「なぜ、先輩が頭を下げるんですか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきました。

 「営業は、誰に頭を下げても心が折れないようにプライドを育ててもらっているからね」

 後に知ったのですが、営業はどんな小さな新規受注でも、上司や同僚から一斉に称賛され、時に表彰されます。上司から「お前の力だ。お前だからできた」と、ことあるごとに褒められ、その苦労話を後輩たちの前で披露してほしいと頼まれることもしばしば。そうするうちに「自分は社内で認められる立派な営業なんだ」というプライドが醸成されるのです。

プライドが人を前向きにする

 芝居がかっていて真実味を感じないかもしれません。見方によっては、格好悪い職場とも思われるでしょう。実は、当の本人たちもそれに気づいているかもしれません。それでも、称賛されることで仕事に対するプライドを育むのが人間というものです。

 そのプライドは、意に沿わない仕事や納得できない仕事を積極的に行うことを助けてくれます。文句を言いたい顧客や後輩に頭を下げる精神的な負担を和らげます。プライドという心の柱が、人を常に前向きにしてくれるのです。

 上司には、部下に不愉快な思いを覚悟してもらわなければならない時、嫌な仕事を命じなければいけない時が必ずあります。その時に備えて、部下のプライドを普段から育てる工夫をするのも、上司の大切な仕事の一つです。

 <「部下を伸ばす上司 ダメにする上司」は毎週火曜日掲載です。次回は5月3日です>

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細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

1964年、神奈川県生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、日本IBMでシステム開発やコンサルティングを行う。著書に「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」「IT専門調停委員が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則」(日本実業出版社)などがある。

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