青春小説の系譜

あさのあつこ「ランナー」にあふれる若さと疾走感

鶴谷真・毎日新聞学芸部記者
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 大ベストセラー「バッテリー」で知られるあさのあつこさんが、陸上の長距離走者を主人公に据えた小説が「ランナー」(2007年)だ。「この地方」で屈指の進学校、東部第一高校に通う男子生徒、碧李(あおい)の、1年秋から2年夏にかけての挫折と再起の物語である。

 個人的に、長距離走にはトラウマがある。1987年、中学1年だった私は体育の授業で1500メートルを走った。部活(軟式テニス部)でいつも走らされていたから、わけがないと思っていたのだが、違った。タイムを計測され、順位がつく長距離走は大変な苦痛だったのだ。

 以来、中学や高校の陸上部の長距離選手を畏怖(いふ)するようになった。平素はへらず口ばかりたたくクラスの長距離選手は、ひとたび練習となれば、男女ひとかたまりのグループに溶け込んで土のトラックをタッタッタッと小気味よく踏み、スピードを上げたり下げたりする様は風になったかのようだった。ボールを追ったり、相手を投げ飛ばしたりする競技とはまったく別物で、「信仰」とか「祈り」すら感じる光景だった。

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鶴谷真

毎日新聞学芸部記者

1974年、神戸市出身。2002年毎日新聞社に入社し、岡山支局、京都支局を経て08年に大阪本社学芸部。13年秋から東京本社学芸部。文学を担当している。