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奨励金が復活させた「携帯ゼロ円販売」はゾンビか

北俊一 / 野村総合研究所上席コンサルタント

 ゴールデンウイーク前後から、「実質ゼロ円」「一括ゼロ円」といった文言がケータイショップの店頭ポップやチラシにまたぞろ復活してきた。これは一体どういうことなのか。スマホの端末価格に相当するような行き過ぎた端末補助金は規制され、「ゼロ円販売」はできなくなったのではなかったのか? そのからくりを解説しよう。

総務省の強い決意にもかかわらず……

 その前に、なぜ総務省は、スマホの行き過ぎた安売りを規制するのか。消費者にとっては理解しにくいことだろうが、このまま過度な安売り競争が続くと、次のことが実現できなくなるからである。

 (1)高止まりと言われるケータイ料金の低廉化(2)端末購入補助を受けない長期利用者との不公平性の是正(3)MVNO(格安スマホ)の普及促進--。つまり、中長期的にユーザーの不利益が続くことになるのだ。

 総務省は、「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」を作り、4月1日から運用している。4月5日にはさっそく、ドコモとソフトバンクに行政指導をした。新発売のiPhone SE(16GB)の価格を、ドコモは実質648円、ソフトバンクは実質ゼロ円を下回る、最大2万1168円還元に設定していた──と指摘、速やかな是正を求めたのだ。

 KDDIは、オンラインショップの価格設定が1万円を超えていたため、行政指導こそ免れたが、店頭では、販売代理店が販売奨励金を端末値引きに充当していたため、口頭で注意を受けた。正確に言うと、端末値引きへの充当を前提とした端末販売奨励金が支払われ、代理店がゼロ円を下回る価格で端末を売った、ということだ。

 ここまでは、総務省の不退転の決意が見てとれる。このままいけばゼロ円販売は消滅するかと思われたが、ゴールデンウイーク前あたりから、ゼロ円販売が復活した。それは、販売奨励金の存在である。

抜け穴「奨励金マジック」で端末を値引き

 スマホの端末購入補助は、(1)通信事業者が直接ユーザーに還元するものと、(2)通信事業者の代理店への販売奨励金の一部が、代理店を通じて間接的にユーザーに還元されるもの、の2種類がある。

 (1)には、通信料金からの割引(月々サポート、毎月割、月月割など)、端末購入代金の割引、データ通信量の無料増量、キャッシュバック・商品券・ポイント還元などがある。(2)の販売奨励金は、大きく分けて、端末の販売に対する奨励金と、回線契約の獲得に対する奨励金がある。

 現行ガイドラインが端末補助金の対象として規制しているのは、通信事業者がユーザーに直接還元する(1)と、(2)の販売奨励金の中でも、端末販売への奨励金だけである。回線契約の獲得に対する奨励金は対象外であり、またタブレット販売や光回線契約獲得に対する販売奨励金も、対象外である。

光回線や電力契約、タブレット販売とセットで「大還元」

 そのため、通信事業者の中に、このガイドラインの“穴”をつくところが出てきた。スマホの回線契約の獲得や、タブレット販売、光回線契約獲得に対する奨励金を厚くし、それを代理店が自分の判断で端末価格の値引きに充当する、ということをやっているのだ。その結果、実質ゼロ円やゼロ円を下回る販売が復活している。

 これらの行為は、ガイドラインには違反していない。しかし、ガイドラインの目的には反している。そもそもなぜガイドラインが作られたのか。端末価格を適正化することで、端末価格によるユーザー獲得競争から、通信料金やサービスによるユーザー獲得競争へと、市場をシフトさせるためだ。にもかかわらず、穴をついて端末価格競争が行われているのだ。

 ショップのスタッフからは、「せっかく市場が健全化すると期待したのに、また元に戻った。失望している」という声も聞こえる。ガイドラインの穴を速やかに埋めることはもちろん必要だが、通信事業者のマインドが市場健全化を目指さない限り、イタチごっこは続くだろう。

 <「最適メディアライフ」は原則、金曜日に更新します>

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北俊一

北俊一

野村総合研究所上席コンサルタント

1965年、横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。90年株式会社野村総合研究所入社。四半世紀にわたり、情報通信関連領域における調査・コンサルティング業務に従事。専門は、競争戦略、事業戦略、マーケティング戦略立案及び情報通信政策策定支援。総務省情報通信審議会専門委員。

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