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あなたの「ロケーション履歴」が捜査に使われる?

まつもとあつし / ジャーナリスト

 スマートフォンの普及で位置情報の活用が広がっています。例えば筆者は、位置情報を共有するアプリ「Swarm」(スワーム)で、取材や記者会見などの場所を記録(チェックイン)し、インターネット上で共有することがあります。

位置情報を共有するアプリ「Swarm」(スワーム)の画面
位置情報を共有するアプリ「Swarm」(スワーム)の画面

 「おや、まつもと(筆者)がこの現場にいるのか」と気づいた知り合いの記者が、声を掛けてくれて意見交換などをできることもあります。筆者にとっては、自分の位置情報を活用することのメリットの一つです。

グーグルに蓄積されるスマホの位置情報

 スマホの位置情報は、私たちの生活を便利にする一方、「いま、あるいはこれまであなたがどこにいたのか」というプライバシーに関わるものでもあります。その取り扱いには細心の注意が必要でしょう。

 ユーザー自らがアプリなどで位置情報の記録や共有をしていなくても、端末の位置は通信キャリアーや、ユーザーが位置情報の提供を許諾したサービス事業者に逐一記録、蓄積されています。

 例えば、基本ソフト(OS)がアンドロイドのスマホを使っていれば、多くの人は米グーグルのデータベースに位置情報を蓄積していることになります。この履歴は、グーグルのアカウントページ内の「ロケーション履歴」で確認でき、記録の消去も可能です。

グーグルのロケーション履歴。赤い点で訪れた場所が表示されている
グーグルのロケーション履歴。赤い点で訪れた場所が表示されている

 「ロケーション履歴」を初めて目にした人は、特別な操作を行わなくても、自分の行動履歴、つまり、いつどこにいたかが逐一記録されていることに驚くはずです。グーグルもユーザーの位置情報を蓄積して、地図サービスの経路案内や渋滞情報の精度向上などに積極的に活用しているのです。

改定された総務省の「個人情報保護ガイドライン」

スマホで見たグーグルのロケーション履歴
スマホで見たグーグルのロケーション履歴

 この位置情報に関して、比較的ITに親しんだ人たちの間で、最近ちょっとした騒ぎが起こりました。犯罪捜査における位置情報の取得要件の変更です。

 総務省は2004年、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を示しました。このガイドラインに沿って、捜査機関は位置情報の提供を通信事業者に求めることができました。ただし、従来は裁判所の令状があり、その位置情報の利用者に「あなたの位置情報は取得されています」という通知が必要でした。

 これに対して、「振り込め詐欺の捜査に際して支障をきたす」という声が上がっていました。総務省はこのガイドラインを昨年6月に改定し、利用者への通知を不要としたのです。

通知なしに警察に位置情報を提供するスマホ

 振り込め詐欺などの捜査に「支障をきたす」という懸念は、当然あるでしょう。このガイドライン変更を受けて、NTTドコモは、今夏販売の新モデルのスマホの一部で、本人通知なしに捜査機関に位置情報を提供できるように対応しました。また、旧機種も位置情報アプリのアップデートで同様の対応が行われるようです。KDDI(au)、ソフトバンクは、対応を検討中のようですが、いずれ同様の取り扱いになるでしょう。

 このニュースが報じられると、ネット上の一部で「プライバシー侵害の懸念があり、とんでもない」という声が上がりました。そして、対象となる機種が、アンドロイドのスマホに限定されることが判明すると、「やはり、iPhoneはプライバシーについては安心だ」と、iPhoneを評価する声が集まったのです。

 実は、iPhoneのOS「iOS」には、通信キャリアーに端末の位置情報を取得させる仕組みがありません。また、位置情報に関することではありませんが、iPhoneを販売する米アップルは、米連邦捜査局(FBI)から犯罪容疑者のiPhone端末のロックを解除できるソフトウエアツールの提供を求められた際に、断固拒否したという出来事が今年ありました。アップルのプライバシーに対する姿勢がよく表れています。

プライバシー保護と社会的な効用のバランス

 総務省のガイドラインに関しては、本人通知はなくなりましたが、裁判所の令状が必要で、犯罪に関わらないユーザーの位置情報が安易に提供される心配はほぼないでしょう。位置情報はプライベートな情報だから、他人に知られたくないというのは自然な感覚ですが、前回取り上げた刺傷事件の位置情報の扱いのように、適切に活用されれば犯罪の抑止も期待できるはずです。

 今後も、スマホの位置情報を巡っては、プライバシー保護と社会的な効用をどうバランスさせるかについて、国や企業、ユーザーの間で調整が続くことになります。

 もちろん、行きすぎた個人情報の活用には注意しなければなりませんが、「アンドロイドのスマホは居場所が知られるから嫌だ」と表面的に捉えるのではなく、その変更に至った経緯や背景などを押さえておく必要があるでしょう。

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まつもとあつし

まつもとあつし

ジャーナリスト

ITベンチャー、出版社、広告代理店、映像会社などを経て、現職。ASCII.jp、ITmedia、ダ・ヴィンチなどに寄稿。著書に「知的生産の技術とセンス」(マイナビ/@mehoriとの共著)、「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。

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