燃費不正が発覚し、記者会見冒頭で頭を下げる三菱自動車の相川哲郎社長(肩書きは当時)=2016年4月26日、徳野仁子撮影
燃費不正が発覚し、記者会見冒頭で頭を下げる三菱自動車の相川哲郎社長(肩書きは当時)=2016年4月26日、徳野仁子撮影

政治・経済自動車不正リポート

企業が不祥事や内紛を隠せない時代になった

編集部

相次ぐ企業不正(3)

 企業の不祥事が多発し、人事抗争や創業家との対立といった企業統治上の問題も噴出している。金山隆一・週刊エコノミスト編集長と今沢真・経済プレミア編集長の対談で、「企業は不祥事を隠し切れない時代になった」という認識で一致した。【司会は山口敦雄・毎日新聞出版図書第2編集部編集長代理】

 −−まず、東芝の不正会計で、歴代3社長の刑事責任をめぐり、東京地検特捜部と証券取引等監視委員会の見解が対立しているとの報道がありました。監視委は「明らかな粉飾」と見ているのに対し、地検は「立件は困難」と考えが分かれているようですね。

今沢真・経済プレミア編集長
今沢真・経済プレミア編集長

 今沢真編集長 東芝の不正は「明らかに粉飾」という見方が会計の専門家には多いです。ただし、具体的に、金融商品取引法の「有価証券報告書の虚偽記載」で個人の刑事責任を問うかとなると、時効とか、公判維持とかの問題が出てくるのでしょう。

 日本の資本市場の信頼性とかかわってくる問題です。もし立件しないのなら、検察なり、監視委なりがしっかり説明する責任があると思います。

以前なら水面下の出来事も表ざたに

 −−東芝、三菱自動車ばかりではありません。海外ではフォルクスワーゲンの排ガス不正がありました。不正とは言えませんが、セブン&アイ・ホールディングスの人事抗争や出光興産の創業家による合併反対といった企業の大騒動が相次いでいます。

金山隆一・週刊エコノミスト編集長
金山隆一・週刊エコノミスト編集長

 金山隆一編集長 一般論ですが、世の中が不寛容になってきています。経済の急成長はできない、将来が見通せない、名門といえども安泰じゃない。稼ぐのも大変。みんながせちがらくなっている。そうした中で、不正は許さないという不寛容さが背景としてあると思います。

 今沢 不祥事や内紛を企業が隠し切れなくなったのではないかと思います。例えばセブン&アイの人事抗争は、社外取締役や米国のファンドが意見を言うことで表ざたになりました。

 出光興産の創業家の合併反対も、以前なら表に出ずに水面下でやり取りが続いた案件かもしれません。「透明性」から見れば良いことでもある。ただ、いまは企業統治の制度とか経営者の意識とか、いろいろな意味で過渡期なんですよ。だから、おかしなことが出てくる。

 金山 企業の不正も不祥事も10年も20年も前からありましたが、それが表に出る時代になったんですね。

人事抗争の末、引退を決断したセブン&アイHDの鈴木敏文元会長(左端)=2016年4月7日、徳野仁子撮影
人事抗争の末、引退を決断したセブン&アイHDの鈴木敏文元会長(左端)=2016年4月7日、徳野仁子撮影

株主総会はいまだに形骸化

 −−株主総会シーズンが一段落しました。不正への追及はどうでしたか。

 今沢 三菱自動車の総会は都心から少し離れた幕張メッセで開かれましたが、出席株主は前年の4分の1以下でした。株主はあきれている感じでしたね。東芝は不正が起きてから臨時開催も含めて3回目の総会なんで、株主も追及疲れもあるだろうし、うるさい株主はもう株を売っちゃったかもしれません。

 全体として株主総会は相変わらず形骸化してるなと思いました。企業への本質的な問いかけが株主からあっても、経営陣から、それに正面から向き合う答えがないとか。

 金山 そう。シャンシャン総会です。経営を正すけん制機能、監視機能があるはずですが。だいたい2時間ぐらいはやっていて、株主から厳しい質問が出るようにはなったけど、それでも全部シャンシャンで終わるんですよね。修正動議が可決されることもない。

幕張メッセで行われた三菱自動車の株主総会=2016年6月24日、今沢真撮影
幕張メッセで行われた三菱自動車の株主総会=2016年6月24日、今沢真撮影

 −−例えば三菱自動車では、大株主の三菱重工業なり、三菱商事なり、銀行なりが、「うちの利益をこんなに毀損(きそん)して、何やってるんだ」と株主総会で文句言うべきですよね、本来は。

 金山 そう思います。実際に、「物言う株主」で知られる米投資ファンドのサード・ポイントが「株主還元」とちょっと言っただけで、IR委員会をつくった会社もありました。社外取締役や委員会設置会社といった制度を活用していくことで、企業のあり方は変わっていくと僕は信じたいです。

社外取締役は名誉職では務まらない

 −−監査役も社外取締役も、経営を監視する役割を果たさなければならない。でも、ほとんど名誉職のような感じがあります。

 今沢 これからは名誉職ではすまないです。おかしいと思ったらどんどん言わないと。何かあったときに責任を問われます。

 金山 監査役や社外取締役に限らず、本来、全員が高い倫理観を持つことが大事なんです。でも、筋を通すより、組織の論理、職を失う恐怖、名門から外れてしまうという恐怖感が先に立つ。これをただすのは簡単ではないと思います。

 10年以上前のことですが、独立系のエンジニアリング企業の30代の社員が勉強会を開いたんです。経営環境が厳しく、自分たちは財閥のバックもない。どう生き残るかがテーマでした。こういう会社は強いなと思いました。そして、業界トップになった。

 三菱自動車も東芝も、そういう発想がありませんでした。名門でも潰れるという危機感を持って、どうしたら新しい挑戦ができるかを、現場サイドの人たちが考えて議論する意識がないと企業はダメだと思います。

 <「相次ぐ企業不正」は今回で終わります>

【(1)三菱自、東芝不正を温存した「名門企業のエリート」

【(2)日産頼みで体質が変わるか 三菱再生への疑心暗鬼

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編集部

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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