スキル・キャリア職場のハラスメントどう防ぐ?

C課長の“言動と接触”を拒めなかった営業女子の悩み

井寄奈美 / 特定社会保険労務士

 A課長は、中堅専門商社で部下8人を持つ30代後半の男性です。A課長の営業1課は若手から中堅社員、管理職までの関係が良好で、元気なメンバーがそろっていました。新規契約が取れるとハイタッチをして喜び合うようなチームです。周囲からは「体育会のようだ」と言われていました。

会議に出席しなくなった女性営業社員

 20代後半で入社5年目の女性営業社員Bさんもチームの中心メンバーの一人でした。明るく社交的で顧客にも好かれ、男性社員と肩を並べてバリバリ働くタイプです。

 そんなBさんが、あるころから月1回の複数あるチームの課員全員が出る営業の全体会議に出席しなくなりました。営業会議は、事前に年間スケジュールに組み込まれており、よほどの理由がない限り、出席を義務づけられています。しかし、急に出張を入れたり、「顧客との打ち合わせが長引いた」「体調不良」といった理由で欠席するようになったのです。

 それが数カ月も続き、A課長も直属の上司としてBさんに注意せざるを得ません。Bさんを別室に呼んで会議を欠席する理由を聞いたところ、「営業2課のC課長と顔を合わせたくない」と言われました。

生理的に受けつけなければ何をされても「セクハラ」

 詳しく聞くと、C課長はBさんに好意を持っているのか、なれなれしい態度で接してくるとのこと。例えば、「先月も売り上げ達成したみたいだね。おめでとう」と握手を求めてきて、もう一方の手で背中をポンポンたたいたり、「その洋服、とても似合ってるね。Bさんが担当者で来てくれる顧客の会社に僕がいたら、どんどん契約しちゃうよ」「最近ちょっと太ったんじゃない? 僕はそれくらいがいいけどね」といったりするのです。

 実はA課長は、Bさんが誰にでも笑顔で接して、男性からの下ネタも軽く受け流すタイプだと思っていたので驚きました。Bさんは続けて次のように話します。

 「C課長の私を見る目が、獲物を見るようで生理的に受け付けないんです。チームの男性社員は仲間なので、ハイタッチをしたり肩をたたかれたりしても何とも思わないのですが、それを見て異性との身体接触をいとわない女性と考えられているとすれば、それは違います。ただ、C課長にだけ、『そんなことを言われたくない』『体に触れないでほしい』と言えなかったんです。C課長と顔を合わせる機会を減らそうと会議を欠席するようにしました」

表だって嫌と言えない女性社員はたくさんいる

 A課長は悩みました。確かにC課長は、女性社員になれなれしい態度を取るタイプではありましたが、それが全てセクハラかと言われると判断に迷ってしまったのです。A課長自身が間に入ってBさんの思いをC課長に伝えても、C課長に他意がなければ気まずい雰囲気になります。いずれ、Bさんが異動でC課長の部下になることも考えられるので、余計にやっかいでした。

 だからといって、Bさんの会議欠席を許すわけにはいきません。そこで、会議に出席するBさんには、必ずA課長が付き添うようにしました。C課長がBさんに嫌がる言葉をかけてきたときは、「それを言われる女性はどう思うんでしょうね」など、やんわりと伝えるようにしたのです。

 そして、Bさんの了承を得た上で、人事部に当事者の名前を出さずに相談を持ちかけて、研修の事例に盛り込んでもらうように依頼しました。実際にその内容は、ハラスメントの言動例として研修で紹介され、参加者同士で対処法を討論する事例となりました。

 結果的には、人事異動でC課長が転勤することになったため、Bさんの件は大きな問題に発展することはありませんでしたが、表だって嫌だと言えないのは、内向的な性格の人だけではないことをA課長は学んだそうです。

 <「職場のハラスメントどう防ぐ?」は火曜日に掲載します>

 井寄奈美さんの新刊「トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール」(日本実業出版社)が7月22日に発売されました。女性社員の採用や扱い方に迷っている中小企業経営者、人事担当者の悩みを解決する1冊です。

経済プレミア・トップページはこちら

ベテラン女性社員の「逆パワハラ」はなぜ起きたのか

「マタハラ」指摘を恐れ過ぎず妊娠部下と付き合う方法

仕事で使うLINEで起きたセクハラへの対処法

育休を望んだ部下に厳しくあたった女性上司の本音

アルバイトに集団欠勤された居酒屋店長の問題点

「職場で下ネタ」は相手が誰でもセクハラ確定

井寄奈美

井寄奈美

特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…