丹羽宇一郎の「商売道」

虚栄心は資本主義に必須だが猛毒もある

丹羽宇一郎・元伊藤忠商事社長
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 「自分はこのような人間になりたい」という虚栄心が現実とピタッと合い、真実になった時に初めて虚栄心が「良い虚栄心」になります。しかし、お金をもらうだけ、おいしい物を食べたいなど、自分の欲望を満たすための虚栄心だけで生きるとすれば、それは寂しい話です。

 道徳も倫理もない、何をやっても良いから格好良くし、威張りたいというのが、「悪い虚栄心」です。最近、このような「悪い虚栄心」を持った人が世間にあふれています。

 経済学者で哲学者のアダム・スミスは「道徳感情論」のなかで、人間の虚栄心について触れています。アダム・スミスは「国富論」で有名ですが、この「道徳感情論」はそれ以上の名著だといえます。アダム・スミスは、人間の虚栄心は、資本主義社会を維持していくのに非常に重要だと述べているように私には思われます。しかし、一方では、悪徳であり、道徳を破壊するようなことを起こすかもしれません。

 例えば、もし陸の孤島で一人だけで住んでいるとします。誰との付き合いも何もない。自分の他には誰もいない状況です。その時、人間には虚栄心はないのです。なぜなら、人間が虚栄心を持つのは他人がいるからです。

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丹羽宇一郎

元伊藤忠商事社長

1939年生まれ。名古屋大学卒業後、伊藤忠商事に入社。社長、会長を歴任。社長時代の2000年3月期決算で3950億円の不良資産一括処理を決断し、翌年の決算で同社史上最高益をあげる。10年から約2年半、民間出身で初の中国大使を務める。著書に「人類と地球の大問題」「人を育てよ」「危機を突破する力」などがある。