
現在、鉄火といえば、すぐ思い浮かぶのは鉄火丼とか鉄火巻きではなかろうか。マグロの赤身の色が、熱して真赤になった鉄と同じだからである。
しかし、戦国時代から近世初頭にかけては、鉄火は、裁判の方法の一つであった。罪の有無を試すため、神前で熱した鉄を握らせ、数歩先の神棚まで運ばせるという裁判のやり方だ。悪事を働いていれば、その者が神罰によって火傷をし、鉄を取り落とすことになり、有罪とされるというものである。
この鉄火が武田信玄のもとで行われていたことが「甲陽軍鑑」品(ほん)第四十七にみえる。この品第四十七は「公事之巻」との別名をもち、信玄にかかわる訴訟について具体例がいくつか記されている。
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小和田哲男
静岡大学名誉教授
戦国大名・今川氏のお膝元で、徳川家康の隠居先でもあった静岡市で1944年に生まれる。72年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。専門は日本中世史。戦国時代史研究の第一人者として知られ、歴史番組でおなじみの顔。趣味は「城めぐり」で、公益財団法人「日本城郭協会」の理事長も務める。主な著書に「戦国の群像」(2009年、学研新書)、「黒田官兵衛 智謀の戦国軍師」(13年、平凡社新書)。公式サイト https://office-owada.com