社会・カルチャーメディア万華鏡

「意見の分布」を知る手がかり 新聞社の世論調査

山田道子 / 毎日新聞紙面審査委員

 毎日新聞の10月26日朝刊に、毎日新聞が実施した第70回読書世論調査の結果が載った。過去の調査でよく読まれたり、戦後ベストセラーになったりした21の文芸作品を挙げ、読んだことがあるかを尋ねたところ、最も多かったのは夏目漱石の「坊っちゃん」(61%)だったという内容だ。

2016年10月26日付の毎日新聞大阪朝刊
2016年10月26日付の毎日新聞大阪朝刊

 毎日新聞の読書世論調査は、戦後間もない1947(昭和22)年に始まり、年に1回行われている。日本人の読書傾向を全国規模で調べ続けている唯一の調査だ。例えば、書籍を読む人の割合を示す「書籍読書率」の変遷はこの調査でしか分からない。

 読書世論調査は郵送で質問用紙を送り、回答を返送してもらう。調査対象は、住民基本台帳から「層別2段階抽出法」と呼ばれる無作為抽出法で男女計3600人を選ぶ。準備から記事掲載まで半年以上かかる。

 一方、各新聞社が実施する内閣支持率などの世論調査は、今は電話で調査が行われる。固定電話の番号をコンピューターで発生させ、調査員がその番号に電話して調査を行う。この方式は「RDS(ランダム・デジット・サンプリング)方式」と呼ばれている。

世論調査のコールセンター=2015年5月撮影
世論調査のコールセンター=2015年5月撮影

 簡便に実施できるこの方式は、「世論」というより「気分」を聞くようなものと言われることがある。これに対し、郵送調査は回答者にじっくり質問を読んで考えてもらった「世論」をすくえる。

住基台帳閲覧には非常に手間がかかるが……

 筆者は以前、毎日新聞の世論調査室長という仕事をしていた。そのときにこの読書世論調査に携わり、住民基本台帳の閲覧に非常に手間がかかることに驚いた。

 2006年の改正住民基本台帳法施行で住基台帳は「原則非公開」となり、例外的に「世論調査などの調査研究のうち公益性が高いと認められるものの対象者を抽出する目的で閲覧する場合」が認められた。

 世論調査を実施するメディアは「公益性が高い」ことを証明し、閲覧した個人情報を厳重に管理することを示すために複数の書類を提出しなければならない。閲覧手続きや書類、閲覧手数料は自治体ごとに異なる。提出書類を整えるのに非常に手間がかかるのだ。しかも閲覧手数料が、大字別の帳簿1冊につき1万円という自治体もある。

 ただ、住基台帳の閲覧・抽出、ひいては世論調査をやっていると日本は本当にいい国だなあと感じる。閲覧手続きは煩雑だが、台帳は整っている。ほとんどの職員は世論調査を理解していて、スムーズに閲覧できる。調査対象に郵便物はきちんと届き、回答者はこちらを信じて返送してくれる。

北朝鮮の「世論調査」はサンプル数36人!?

 「世論・選挙調査研究大会」というイベントが毎年秋に開かれる。埼玉大社会調査研究センターの主催で、世論調査に携わる人たちが調査に関わる問題などを話し合うものだ。新聞社の世論調査担当者や研究者などが参加する。筆者が世論調査室長をしていたとき、同僚がこの大会で「調査対象者抽出における課題」をテーマに発表した。

 そこで同僚は、「公益性の高い世論調査に伴う抽出作業が、円滑に進むように取り計らい、調査の自由度を保障する。これが民主主義の土台を確かなものにし、プライバシーについてより多くの人が考えるきっかけになるだろう」と報告した。

 先日、米シンクタンクが北朝鮮で初の世論調査を実施したというニュースが流れた。サンプル人数はたった36人。無作為抽出に基づく科学的な世論調査ができる国ではないだろうから、アンケートと言ったほうがいい。

 ロシアでは、プーチン政権に不利な世論調査結果も公表してきた、独立系の世論調査機関「レバダ・センター」が6月に、スパイと同義の「外国の代理人」に指定された。

米大統領選共和党候補のドナルド・トランプ氏=2016年10月13日、西田進一郎撮影
米大統領選共和党候補のドナルド・トランプ氏=2016年10月13日、西田進一郎撮影

 一方、米大統領選で差別発言を繰り返すドナルド・トランプ候補が世論調査批判をするのは、世論調査の民主性や公平性がトランプ氏の考え方と相いれないからだろう。世論調査がスムーズに行われるかどうかは、民主主義の定着度を測る物差しでもあるようだ。

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山田道子

山田道子

毎日新聞紙面審査委員

1961年東京都生まれ。85年毎日新聞入社。浦和支局(現さいたま支局)を経て社会部、政治部、川崎支局長など。2008年に総合週刊誌では日本で一番歴史のあるサンデー毎日の編集長に就任。総合週刊誌では初の女性編集長を3年半務めた。その後、夕刊編集部長、世論調査室長を経て15年5月から現職。

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