空から見た夜の東京・池袋
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くらし下流化ニッポンの処方箋

「学校に行きたい」28歳女性介護士の風俗サバイバル

藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

 前回の記事「“若者使い捨て”24歳保育士の明るくない未来」で、保育士や介護士の低賃金の厳しさと、風俗店で働いてなんとか収入を維持しようと工夫する状況を紹介しました。

 登場した27歳保育士は、専門学校を卒業して7年間、ずっと同じ給料のままでした。では、続けられなくなって辞めても、転身は簡単ではありません。そもそも職業訓練を受けたり、学校に入りなおしたりするお金がありません。そこで、風俗店で 働きながらお金をため、転身の機会をうかがっています。

 私たちのNPO「ほっとプラス」に相談に来た28歳の介護職女性も、同じ状況でした。家計や将来への計画を詳しく聞いたところ、現実的な判断のもと、周到な準備をしていました。

セカンドキャリアとしての看護職、福祉職

 彼女は福祉専門学校を卒業して、介護士として埼玉県内の介護施設で働き始めました。賃金は額面で月約16万円。ワンルームマンションに住み、車の維持費を払うと残りは10万円弱。そこから食費、光熱費、携帯電話代を払います。そんなに残りません。

 そこで、施設と相談して勤務を昼間だけにしてもらい、週に数回、東京・池袋の風俗店で働くことにしたそうです。そもそも賃金が低い施設で夜間勤務や宿直をするより、風俗店で働く方がはるかに稼げます。お金をためて、行政書士資格を取るための学校に行きたいと考えています。

 施設の給料が約16万円、風俗店で週2~3回働いて月13万~14万円。計約30万円の中から毎月6万~7万円を貯蓄に回し、転身のタイミングを計っています。とても賢く、冷静に、自分のサバイバルを考えています。

 保育士、介護士からの相談の多くが風俗の仕事絡み。高校を卒業して働く中小企業の事務職女性も同じで、いわゆるノンキャリアと言われる高卒、専門学校卒の低賃金労働者の困窮が、顕著です。

 相談に対して、私たちができることは正直あまりありません。風俗を辞めたいと言われたら「じゃあ辞めましょう」という話になりますが、収入を補う手段が他にないのです。そもそも風俗業も競争が激しく、その仕事に就くことも難しくなっています。

 病気を患っているなら、「生活保護をもらって一度休みましょう、その後職業訓練を受けて人生を変えましょう」とアドバイスできますが、健康で賃金が低いだけでは手がない。悩ましいところです。

 お金を持っている相談者に対しては、セカンドキャリアとして看護職や社会福祉士を目指すよう勧めます。対人援助職の中でもまだ賃金水準が高く、求人数も多い分野だからです。しかし学費が高いので、お金がないと難しい。また、女性なら経済力のある男性との結婚を目指す方法もありますが、男性の平均賃金が下がっているので簡単なことではないでしょう。

「みんなで負担、みんなが受益者」という仕組みを

 低賃金ワーカーだけでなく、学生も必死です。親の収入が伸び悩んだり、減ったりしているため、アルバイトをして自分で学費や生活費を稼がないといけません。私が教えている大学でも、多くの学生が働いています。夜の仕事に就いている学生もいます。

 美容業界からの相談も増えています。「非正規で週5日働いて月収8万円」も珍しくありません。男性には、掛け持ちの深夜労働も増えています。

 保育士、介護士だけでなく、学生、事務職、飲食店員、シングルマザーなど、低賃金で働く人はどんどん増えています。普通の暮らしを維持するために、ダブルワーク、トリプルワークが当たり前という異常事態です。

 「若者の貧困を放置したらいずれ日本は大混乱」でお伝えしたように、こうした異常事態が、日本の相対的貧困率16・1%、つまり国民の6人に1人が貧困状態にあることの表れです。経済が縮小し、富が偏在し、格差が拡大・固定化して、経済資本、社会資本を持たない人たちの貧困が加速しています。

 このような状態のまま、日本はいっそうの少子高齢化時代に突入します。今後10年間で、いわゆる団塊世代(1947~49年生まれ)の人たちが後期高齢者になります。介護や医療需要はどんどん大きくなります。

 一方、共働き家庭の割合も上昇する見通しです。夫婦が働きながら子育てをするには保育所が必要ですが、今後数年で新たに確保が必要とされる保育士数は6万人以上です。でも賃金が低いまま、介護や育児労働に従事させるのは困難です。

 低所得者への住宅手当導入や、公営住宅の空き部屋開放、保育・介護職員の待遇改善など、税金を効果的に投入する必要があります。税の投入には財源問題が必ずついて回りますが、税を引き上げないと仕組みが持ちません。

 子供を育てるために、介護医療のために、今後何が必要でいくらかかるのか、そのニーズと費用をパッケージで考えた上で、「みんなが負担し、みんなが受益する」仕組みを新たに作らなければならないでしょう。

 <「下流化ニッポンの処方箋」は原則毎週1回掲載します>

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藤田孝典

藤田孝典

NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版)「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。

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