猫ブームの光と陰

捨てられてのたれ死ぬ野良猫たちの悲惨な最期

駅義則・元時事通信記者
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十数年にわたり公園で暮らしていたボスのメス猫。最後は雨に打たれて死んでいた=駅義則撮影
十数年にわたり公園で暮らしていたボスのメス猫。最後は雨に打たれて死んでいた=駅義則撮影

 猫の繁殖力は非常に強い。環境省のパンフレットによると、メス猫は生後4カ月を過ぎれば妊娠可能で、1回当たり4~8匹の子を産む。子供同士も交尾するため、1年後には20匹以上、2年後には80匹以上、3年後には2000匹以上に増えるという。

環境省のバンフレット「もっと飼いたい」から抜粋
環境省のバンフレット「もっと飼いたい」から抜粋

 その割には、街の野良猫が少ないと感じる人も多いのではないだろうか。理由は簡単。病気や事故、虐待で大量に死んでいるからだ。不妊手術をせずに犬や猫を捨てた人は、捨てた個体の数十倍の死を引き起こしていると言っていい。

 2014年夏の午前5時過ぎ、東京都品川区の住宅街の一角で筆者は頭を抱えていた。「あと5分待ってダメなら、夜遅くに出直そう」。もう少しすると通勤や通学の人通りが増え、猫たちが隠れてしまうからだ。

 遠目でにらんでいたら土壇場で、子猫が捕獲器に入った。駆け寄って自転車に載せ、病院へ直行した。「空振り」も含め、こうした日々を知人のボランティア数人と1カ月近く続け、約20匹を捕獲した。

 捕獲した猫のうち、子猫は新たな飼い主を探した。成長していた猫は引き取り先を探すのが難しく、不妊手術をして元の場所に放した。こうした活動は、捕獲(トラップ)、手術(性を中立にするニューター)、戻す(リターン)の頭文字を取って「TNR」と呼ばれる。1990年代に米国で定着した用語で、日本でも近年、目立つようになってきた。

住宅街で保護した数週間後に突然死したオスの子猫=駅義則撮影
住宅街で保護した数週間後に突然死したオスの子猫=駅義則撮影

無責任な餌やりが招くもの

 この地域では、その数年前に野良猫の不妊手術がいったん完了していた。しかし、近くに住む年金生活者の女性が捨て猫や放し飼いの猫に無責任な餌やりを続け、一気に増えた。この女性は、餌やりマナーの悪さを注意した住民の自転車のカゴに生ゴミを入れる姿を、監視カメラで撮られるなどしていた。

 東京都の11年度の調査では、外にいる猫のふん尿や鳴き声を「迷惑だ」とした回答率は62%、野良猫への餌やりを「良くない」と答えたのは58%に上る。実は歓迎はされていない。そして、マナーの悪い餌やりがいると反感は猫にも向いてしまう。

 だが、この時は救いもあった。町会長が地域住民に募金協力を呼びかけ、不妊手術代の一部を負担してくれた。赤ちゃん猫10匹近くを預かり、飼い主を探す間に授乳などの世話をしてくれた住民もいた。

 野良猫の保護や不妊手術、飼い主探しを20年近く続けてきた品川区在住の主婦、岸雪子さん(73)は「ボランティアだけではなく地域ぐるみで取り組まないと、TNRはうまくいかない」と語る。異常繁殖や虐待を防ぐには「地域の目」が不可欠だからだ。

 岸さんは一方で、「『捨て猫や虐待は犯罪です』というポスターをいくら貼っても、なかなか効果はない」と嘆く。警察に頼んでも監視が追いつかず、猫を捨てたり虐待したりしている現場を押さえるのは難しいのだ。ゴルフクラブで下あごを砕かれた猫を病院に運び、その時は一命を取りとめたが、その後再び襲われて死んだ例もあるという。筆者自身も動物病院で、似たような虐待を受けた猫を何度も見かけた。

片方の肺が潰れたまま生き抜いたメスの子猫=駅義則撮影
片方の肺が潰れたまま生き抜いたメスの子猫=駅義則撮影

子猫はどこに行ったのか

 品川区での活動では、全てを救えたわけではない。捕獲したメスの子猫が突然死したこともある。一緒に保護した姉妹の子猫ともども飼い主が決まった日の夜中に体調が急変した。搬送先の救急病院で撮影されたレントゲン写真を後で専門家が見たところ、捕獲前に事故に遭ったらしく、片方の肺が潰れていた。

 別の体験談を紹介しよう。数カ月前、ある住宅街の道の真ん中で子猫がひかれていた。手遅れなのは一目瞭然。抱え上げて道の脇にいた母猫に委ねた。近くの民家に住む男性によると、マンションから引っ越していった人が捨てたオス猫と、その男性宅で放し飼いにしているメス猫数匹が交尾して「10匹くらいが生まれた」という。

 数週間後に再び訪れると、子猫が全ていなくなっていた。ある日の午前0時ごろ、車に乗った男女2人組が無断で1匹残さず連れ去ったという。こうしたケースについてネット上では、「虐待目的でつかまえた」や「動物実験向け」との声が飛び交う。

 しかし、NPO法人「ねこだすけ」の工藤久美子・代表理事は「子猫なら飼い主を探せると考えたボランティアだったのでは」と語る。「都内の住宅街には監視カメラが多く、摘発されるリスクを取る業者がいるとは考えにくい」からだ。都内で野良猫の大量死が起きて虐待が疑われたものの、実は「パルボウイルス」と呼ばれる伝染性のウイルスが原因だったケースもあった。

 ただ、工藤氏によると、地方では現在も、工場やマンションなどからの苦情を受け、野良猫を捕獲して別の地域に捨てる業者が存在する。猫を秘密裏に駆除する業者もいるという。

 子猫が大量に生まれ死んでいくといくら説いても、「かわいそうだ」と不妊手術に難色を示す人は多い。次回は、筆者自身が実際に見た手術の光景を紹介する。

公園で保護して半年後に突然死したメスの猫=駅義則撮影
公園で保護して半年後に突然死したメスの猫=駅義則撮影

 <次回「野良猫の不妊手術は本当に「かわいそう」なのか?」>

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駅義則

元時事通信記者

1965年、山口県生まれ。88年に時事通信社に入社。金融や電機・通信などの業界取材を担当した。2006年、米通信社ブルームバーグ・ニュースに移り、IT関連の記者・エディターなどを務めた。また、飼い主のいない猫の保護や不妊化にも携わっている。