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笑いと涙と青春の真実 吉田修一「横道世之介」

鶴谷真・大阪本社社会部
映画「横道世之介」の長崎市内のロケ地で、沖田修一監督(中央)、高良健吾さんと話す田上富久・長崎市長(左)
映画「横道世之介」の長崎市内のロケ地で、沖田修一監督(中央)、高良健吾さんと話す田上富久・長崎市長(左)

 吉田修一さんの「横道世之介」は、青春小説の新たな金字塔を打ち立てた。長崎から上京して大学生活をスタートさせた横道世之介の18歳から19歳の1年間を描いた。毎日新聞夕刊に2008年4月1日から09年3月31日まで連載されて単行本になり、柴田錬三郎賞に輝いた。

 世之介はごく「フツー」の人物だ。何かを成し遂げようと大志を抱いたり、苦悩と葛藤にうち沈んだりする、いわゆる文学的な「青年」ではない。

 お勉強はテストさえ乗り切ればそれでよし、何となく入ったサンバを踊るサークルは幽霊部員状態(文化祭ではそれなりに楽しむが)、頑張るのはホテルでのルームサービス配膳の夜勤アルバイトだ。あっけらかんと明るくてうそをつけない。面倒臭がりで人並みにエッチな食いしん坊。要するに憎めない。脇役ならともかく、文学の主人公になりそうな人物ではない。

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大阪本社社会部

1974年、神戸市出身。2002年に入社し、京都支局や学芸部などを経て22年から大阪地方部。