
吉田修一さんの「横道世之介」は、青春小説の新たな金字塔を打ち立てた。長崎から上京して大学生活をスタートさせた横道世之介の18歳から19歳の1年間を描いた。毎日新聞夕刊に2008年4月1日から09年3月31日まで連載されて単行本になり、柴田錬三郎賞に輝いた。
世之介はごく「フツー」の人物だ。何かを成し遂げようと大志を抱いたり、苦悩と葛藤にうち沈んだりする、いわゆる文学的な「青年」ではない。
お勉強はテストさえ乗り切ればそれでよし、何となく入ったサンバを踊るサークルは幽霊部員状態(文化祭ではそれなりに楽しむが)、頑張るのはホテルでのルームサービス配膳の夜勤アルバイトだ。あっけらかんと明るくてうそをつけない。面倒臭がりで人並みにエッチな食いしん坊。要するに憎めない。脇役ならともかく、文学の主人公になりそうな人物ではない。
この記事は有料記事です。
残り1550文字(全文1913文字)
注目コンテンツ