中小工場が並び、日本の「ものづくりのまち」を代表する東大阪市=2016年6月9日、釣田祐喜撮影
中小工場が並び、日本の「ものづくりのまち」を代表する東大阪市=2016年6月9日、釣田祐喜撮影

マネー・金融ニッポン金融ウラの裏

地域スモールビジネスで再び脚光 信金信組の存在感

浪川攻 / 金融ジャーナリスト

 マイナス金利という経済環境のなかで、銀行などの金融機関のあり方が根本的に問われ始めている。そうしたなかで、いま、信用金庫、信用組合など中小金融機関の存在を再認識する動きが広がってきた。その背景にあるのは地域コミュニティーの再評価である。

 信金、信組などの協同組織金融機関は元来、地域に根差した活動をモットーとしてきた。ところが、1990年代の金融危機の局面で、数多くの信金、信組の経営が悪化、さらには経営破綻するところもあった。そうしたことを契機に、信金、信組の存在感が弱まっていた。

 メガバンク、地銀などが中小零細企業まで融資先として開拓するリテール戦略を強化し、低い融資金利で取引先を奪う攻勢をかけてきたことも信金、信組の経営基盤の弱体化につながった。

 メガバンク、地銀の金利引き下げ攻勢はいまだに続いている。だが、その一方で、担保や保証といった旧来の手法に依存せず、事業の内容や成長の可能性を評価して中小企業向け貸し出しを行うべきだ、という議論が金融庁を中心に強まっている。

 メガバンクや地銀の「低レートの一本釣りビジネス」(金融庁関係者)は、マイナス金利の時代には限界が見えてきた。メガバンクの取引に象徴される効率化一本やりの営業態勢から、非効率でも顧客とのつながりを重視する地道な取り組みが求められる時代になってきたのだ。

町工場と住宅が混然一体となっている東京都大田区の京急大森町駅付近=2016年6月11日、望月亮一撮影
町工場と住宅が混然一体となっている東京都大田区の京急大森町駅付近=2016年6月11日、望月亮一撮影

工業高校の生徒と町工場をつなげる活動

 たとえば、東京都足立区などを基盤としている中堅信金の足立成和信金は、足立区内の都立工業高校の生徒を地元の町工場など中小企業にトレーニー(訓練生)としてあっせんする「労働学習」の中核組織として活動している。

 地元の中小企業は人手不足が常態化しており、町工場ならではの技術の継承も危ぶまれる。一方で、工業高校の生徒は地元の企業を知るきっかけがなく名の知られた企業に就職し、場合によっては挫折するようなこともあった。

 このトレーニー制度によって、工業高校の生徒が町工場の魅力を認識して、実際に地元の中小企業に就職するケースが少ないながらも定着しつつある。足立成和信金にとって、この取り組みによる直接的な利益はないものの、地域経済の問題解決に向けた活動は地域からの評価を得ている。

 こうした活動は神奈川県にも広がっている。神奈川県内の信金が県立高校の生徒を箱根などの旅館などにトレーニーに派遣する「地元で働こう(県立高校生のインターンシップ支援)事業」を始めている。それを通じて、生徒たちが地元での就職に向かう流れを作っている。

「スモール・イズ・ビューティフル」の時代!?

 こうした活動は、地元企業の事業内容をより精緻に把握することにつながっていることはまちがいない。ある金融庁の幹部も「中小企業に対する事業性評価の原点は、地域コミュニティーの一員となって、地元企業などの悩みや地元での評判などを蓄積できるかどうかにかかっている」と、地域に根差した中小金融機関の活動に着目している。

 ちなみに、最近、不祥事を発生させて評価を下げたものの、「世界のリテールバンク・ナンバーワン」と言われてきた米国のウェルズ・ファーゴは、自身のホームページに学資ローン、住宅ローンなどのコーナーを設定している。

 たとえば、学資ローンであれば、そのコーナーにローン利用者、保護者、学校関係者などが自由に書き込めるサービスを提供してきた。これは「ウェブ上における学資ローンのコミュニティー作り」(米銀関係者)と言われ、「ウェルズ・ファーゴはそこに集まる情報をローン商品の開発に反映させてきた」という。

 金融ビジネスに「スモール・イズ・ビューティフル」の時代がやってきつつあるのかもしれない。

  ◇    ◇

 金融業界を30年余にわたり取材してきた金融ジャーナリスト、浪川攻さんが「ここだけの話」をつづります。「ニッポン金融ウラの裏」は、毎週月曜日の掲載です。

金融庁の表彰制度に猛反対する金融業界のムラ論理

金融庁が銀行に公表を迫る「55のベンチマーク」とは

アベノミクス推奨「JPX日経指数」が不人気な理由

「5300人解雇」米ウェルズ・ファーゴ銀の預金不正

愛人に1億円を貢いだ元銀行員の“華麗な10年”

独最大ドイツ銀行がまさかの経営危機に陥った理由

小池知事が決断を迫られる東京メトロ上場の行方

経済プレミア最新記事へ

浪川攻

浪川攻

金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…