PSVRなど最新のVR機器が体感できる特設コーナー=中国・北京の金融センター「国貿」の大型商業施設で2016年11月15日、赤間清広撮影
PSVRなど最新のVR機器が体感できる特設コーナー=中国・北京の金融センター「国貿」の大型商業施設で2016年11月15日、赤間清広撮影

グローバル海外特派員リポート

「ゲーム御宅」を熱狂させるかプレステVR中国投入

赤間清広 / 毎日新聞中国総局特派員(北京)

 「こんな体験は初めてだ」

 10月13日、インターネット関連など中国の最先端企業が集まる北京市内の情報発信基地で開かれた発表会は熱気に包まれていた。

 この日の主役は、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が開発したゴーグル型の新型ゲーム端末「プレイステーション(PS)VR」。仮想現実(VR)を体感できる話題のゲームで、中国でもこの日から販売が始まった。

 目の前で繰り広げられる幻想的なゲームの世界に中国の消費者の反応は上々だったものの、実はSIEをはじめ世界のゲーム大手は中国市場の攻略に手を焼いている。それには中国の特殊な事情がある。

 米調査会社「ニューズ-」によると、2016年の中国のゲーム市場の規模は243億ドル(約2・5兆円)。長くトップに君臨してきた米国(235億ドル)を既に抜き、今や世界一のゲーム大国に成長した。

 しかし、中国のゲーム市場を支えているのは、スマートフォン向けやパソコン向けのオンラインゲーム市場。日米欧のようにPSなどの「据え置き型」のゲーム機はあまり普及していない。

 海外勢に立ちはだかったのは中国政府が出したある政策だ。

中国ゲーム市場開拓の戦略を語るSIEの織田博之・アジア地域代表=北京市内で2016年10月13日、赤間清広撮影
中国ゲーム市場開拓の戦略を語るSIEの織田博之・アジア地域代表=北京市内で2016年10月13日、赤間清広撮影

ゲーム機の製造・販売を全面禁止していた中国

 「ゲームは青少年にとって有害だ」。中国政府は2000年、ゲーム機は悪影響が大きいとして国内での製造、販売を全面的に禁止した。以来、10年以上にわたりゲーム機は中国市場から締め出された。非正規でソニーや任天堂のゲーム機が海外から細々と持ち込まれてはいたものの、「友達同士で集まり、家のリビングでゲームを楽しむ」という海外では一般的な「文化」が育たなかった。

 ようやく規制が緩和されたのは13年秋。ソニーは直後にPS2を試験導入、15年3月にはPS4を本格投入し中国市場の開拓に着手した。ライバルの米マイクロソフト(MS)も14年9月に「XboxOne(エックスボックスワン)」を投入。ようやく市場に主要ゲーム機が出そろったものの、既にスマホゲームが一般化し、据え置き型で遊ぶ文化のない中国で販売は伸び悩んでいる。

 ゲーム関係者は「中国当局による検閲が厳しく、人気ソフトがなかなか投入できないことも響いている」と打ち明ける。

 一方で中国のゲーム市場を支えてきたスマホゲームも過当競争に陥り、市場は飽和状態に近づきつつある。海外勢、中国勢ともに伸び悩む中、ゲーム市場の新たなけん引役として期待を集めているのがVRだ。

 中国人のVR熱は高い。大型商業施設などにはVRを体験できる店舗があり、関連商品の売れ行きも好調だ。一人の世界に没頭できるVRはスマホゲームを通じて「一人でゲームをする」ことに慣れた中国の「御宅」(中国語でゲーム愛好家)との親和性が高いのかもしれない。

中国で開かれたPSVRの発表会=北京市内で2016年10月13日、赤間清広撮影
中国で開かれたPSVRの発表会=北京市内で2016年10月13日、赤間清広撮影

プレステVRのソフト4本は中国メーカーが自主開発

 そうした中国市場に満を持して登場したのがPSVRというわけだ。SIEはPSVRの発売に合わせ、専用ソフト12本を中国市場に投入。このうち4本は中国メーカーが自主開発したソフトだといい、「御宅」取り込みに向けた意気込みがうかがえる。

 PSVRはPS4につないで遊ぶ必要があるため、PSVR人気はそのままゲーム機の売り上げにもつながる。SIEの織田博之・アジア地域代表は「中国は世界一のゲーム市場であり、アジアでもVR熱が一番高い。PSVR投入を機に中国にゲーム文化を根付かせたい」と期待を込める。

 ゲーム機のコントローラーをほとんど手にしたことのない中国の「御宅」をスマホゲームから引き戻すことができるのか。ファミコン、PSで育った日本の「オタク記者」としてもその行方に無関心ではいられない。

 <「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します>

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赤間清広

赤間清広

毎日新聞中国総局特派員(北京)

1974年、宮城県生まれ。宮城県の地元紙記者を経て2004年に毎日新聞社に入社。気仙沼通信部、仙台支局を経て06年から東京本社経済部。経済部では財務省、日銀、財界などを担当した。16年4月から現職。中国経済の動きを追いかけている。

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