商品を満載した宅配バイク。最近は飲食店の出前用バイクも加わり、「宅配競争」が激化している=中国北京市内で1月17日、赤間清広撮影
商品を満載した宅配バイク。最近は飲食店の出前用バイクも加わり、「宅配競争」が激化している=中国北京市内で1月17日、赤間清広撮影

グローバル海外特派員リポート

「11・11独身の日」を熱狂の日にした中国アリババ

赤間清広 / 毎日新聞中国総局特派員(北京)

 中国の1年の始まりは「春節」(旧正月)だ。今年の春節は1月28日で、中国は1週間の大型連休に入る。

 「春節はみんなでお祝いするけど、中国人にとって1月1日はそんなに重要ではない。昨年の大みそかも夜10時には寝ちゃいました」

 20代の中国人の友人はこう語るが、そんな彼でも毎年、日付が変わるのをカウントダウンで迎える日があるという。

 「11月11日の『独身の日』ですよ。前日の10日夜から多くの中国人がスマートフォンやパソコンとにらめっこして午前0時を待つんです」

 一つずつ解説しよう。中国で11月11日を「独身の日」と呼ぶようになったのは、つい最近のことだ。「1」が四つならぶことから「恋人や配偶者がいない寂しい独り者が、自分で自分をお祝いする日に」と1990年代、中国の大学生の間で徐々に浸透していったのが始まりと言われる。

11月11日午前0時にセール開始

 それを「中国人が熱狂する日」に一変させたのが、中国のインターネット通販グループ最大手「アリババ」だ。2009年、「ぜひ自分にプレゼントを」と「独身の日」に合わせ24時間限定の大規模なネットセールを展開。翌年以降は他のネット通販大手も参入し、1年で最大のネットセールの日として定着した。

ネット通販の浸透で宅配需要が増す中、道端に荷下ろしされた荷物を、近隣住民が受け取りにくるスタイルも定着している=中国北京市内で1月17日、赤間清広撮影
ネット通販の浸透で宅配需要が増す中、道端に荷下ろしされた荷物を、近隣住民が受け取りにくるスタイルも定着している=中国北京市内で1月17日、赤間清広撮影

 セールの目玉商品は数量限定が多いため、利用者は午前0時とともに欲しい商品をクリックする必要がある。多くの中国人が寝ずに11月11日を待つのはこのためだ。

 昨年、アリババが実施した「独身の日」の前夜祭にはデビッド・ベッカム夫妻ら海外の著名人が多数参加。カウントダウンとともに午前0時にセールが始まると、取引額はわずか52秒で10億元(約165億円)、7分ほどで100億元を超えた。

 24時間での取引総額は同社だけで前年比32%増の1207億元(約2兆円)。初売り商戦を抱える昨年1月の日本の全国百貨店売上高が約5300億円だったのを見れば、「独身の日」商戦の巨大さが分かるだろう。

 これまで世界最大のセール日といえば、米国のクリスマス商戦のスタートに当たるブラックフライデー(感謝祭直後の金曜日)とサイバーマンデー(同月曜日)と言われてきたが、「独身の日」商戦は「米国の二つのセール日を合わせた規模をも上回る」(米CNN)という。

買い物の不満を解消してくれる便利なツール

 「独身の日」が終わっても、中国では毎月のように各社がネットセールを展開中だ。1月は多くの人が里帰りする春節を狙ったセールの真っ最中。街中には「5割引き」「お年玉プレゼント」「プレゼントを実家に宅配」といった広告があふれている。

春節に合わせたネット通販セールの広告であふれた地下鉄駅の構内=中国北京市内で2017年1月11日、赤間清広撮影
春節に合わせたネット通販セールの広告であふれた地下鉄駅の構内=中国北京市内で2017年1月11日、赤間清広撮影

 地元紙の報道によると、16年の中国のネット通販市場規模は5兆元(約82兆円)を超えるとみられる。世界のネット通販市場の約半数を中国1国で占める勢いだ。

 中国人がここまでネット通販に熱狂するのには理由がある。

 国土が広大な中国では近所に大型商店がないケースが多く、欲しいものを気軽に入手することが難しかった。注文すれば自宅まで商品を届けてくれるネット通販は、買い物の不満を解消してくれるツールというわけだ。

 日本ではアマゾンなどネット通販の利用拡大が宅配業者の負担増を招き、さまざまな問題が表面化しているが、中国では宅配業者が農村部から都市部への出稼ぎ労働者の雇用を支えている面があり、マンパワーは潤沢にある。わずか数百円の商品でも無料宅配可能で、「天猫」「京東(jd)」など通販大手の宅配バイクが街中をひっきりなしに行き来している。

店の接客の悪さが客をネット通販に誘導

 最近はかなり改善されたとはいえ、商店の接客態度の悪さもネット隆盛の一因といわれている。

 「客がいても店員がスマホをいじり続けていることは日常茶飯事。だから中国人の多くは商店ではなく、ネットでモノを買うんです」

 先の友人はこう語り、再びスマホでネット通販サイトをあさりはじめた。中国のネット通販は個人消費のメインストリームになりつつある。

 <「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します>

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赤間清広

赤間清広

毎日新聞中国総局特派員(北京)

1974年、宮城県生まれ。宮城県の地元紙記者を経て2004年に毎日新聞社に入社。気仙沼通信部、仙台支局を経て06年から東京本社経済部。経済部では財務省、日銀、財界などを担当した。16年4月から現職。中国経済の動きを追いかけている。

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