廃炉には莫大なお金がかかる(東京電力福島第1原発)=宮間俊樹撮影
廃炉には莫大なお金がかかる(東京電力福島第1原発)=宮間俊樹撮影

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東電生かして原発処理に電気代を使う「なし崩し」

エコノミスト編集部

 東京電力福島第1原発の事故処理費に、電気料金の一部を充てるという対策案がまとまりました。国策としての責任を明らかにすることなく、負担を国民に押し付けるものです。「週刊エコノミスト」2月7日号の巻頭特集「電気代は税金となった」よりダイジェストで報告します。

福島第1原発の処理費用は想定の2倍に

 東京電力福島第1原発の事故処理費用が膨張を続けている。2016年12月、経済産業省は21.5兆円との試算を公表した。13年12月の見積もりである11兆円のほぼ2倍となる。費用の膨張を招いた一因は、後述するように、民間企業の手に負えないのは明らかであるにもかかわらず、政府は東電を存続させたまま国費投入を見送ってきたことだ。

 東電による費用負担がはるかに限界を超える中、政府は新たに国民に負担を求める「東電改革案」をぶち上げた。「国民全体で福島を支える、需要家間の公平性を確保するといった観点から、託送制度を活用して広く負担を求める」

国会で答弁する広瀬直巳東京電力社長=藤井太郎撮影
国会で答弁する広瀬直巳東京電力社長=藤井太郎撮影

 16年12月にまとまった経産省の有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)の提言には、このような文言が盛り込まれた。託送制度とは、電力会社が所有する送配電網を発電事業者や他の電力小売事業者が利用することで、その利用料(託送料)は消費者が支払う電気料金に含まれている。

 電力自由化の下でも託送料だけは、かかったコストを確実に電気料金で回収できる仕組みのままだ。送配電事業者である大手電力が費用を計算し、経産相の認可を得るが、国会審議を経る必要はない。

 経産省は事故処理費用のなかで賠償費7.9兆円のうち2.4兆円を「原発を保有する電力会社が事故に備えて積み立てておくべきだった」と主張。20年度から40年間、大手電力だけでなく、電力自由化で新規参入した新電力を含めた消費者が支払う託送料に上乗せして負担を求める方針を示す。経産省の試算で上乗せ額は1キロワット時当たり0.07円で、標準家庭で電気料金が月18円上がる計算になるという。

 今後、事故処理費用がさらに拡大すれば、コストを回収しやすい託送料が利用されかねない。最も可能性があるのは、福島事故の廃炉費用だ。現時点では東電が負担することになっているが、今後、廃炉作業が本格化すれば、膨大な人件費が必要になる恐れがある。

ご都合主義で見送られた法的整理

 未曽有の事故の廃炉や賠償、除染などには莫大(ばくだい)な資金が必要なことは明らかだった。民間企業で手に負えないのは目に見えていた。政府は東電を存続させたまま負担を負わせようとし、国費投入を見送ってきた。それが費用の膨張を招いた。

 その象徴とも言える対応が、汚染水対策だ。事故直後から大量の地下水が原子炉建屋に流れ込み、高濃度汚染水が増加。地下の土を凍らせる「凍土遮水壁」の設置などが検討されたが、東電は債務超過を恐れ、政府も当初は国費の投入を見送った。凍土遮水壁整備などへの国費投入を柱とする汚染水対策の発表は事故から2年半後だった。

廃炉作業は長い道のり(溶けた核燃料と見られる堆積物)=東京電力提供の映像から
廃炉作業は長い道のり(溶けた核燃料と見られる堆積物)=東京電力提供の映像から

 11年の事故直後、東電を法的整理する案もあったが、銀行業界が「金融システム不安が起こる」と猛烈に反発。経産省の松永和夫事務次官が、全国銀行協会会長だった三井住友銀行の奥正之頭取(いずれも当時)に東電をつぶさないことを約束したとされる。政府が東電を法的整理して国有化すれば、事故処理は税金で賄うことになるため、財務省が反対だったことも影響した。

 ある電力関係者は「東電がなくなれば、国策として原子力事業を進めてきた国が批判の対象となる。それを避けるために、東電を存続させる必要があった」と見る。東電委員会の伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院特任教授)は「理屈上は納得いかない人もいるだろうが、国難を国民全員で解決していくことが必要だ」と述べたが、国難であれば、政府の責任の下で事故処理を進めるべきだ。国の保身のために、東電の法的整理は見送られてきた。

 その結果、事故処理費用は膨らみ、東電だけに負担させる枠組みの限界が露呈している。東電に残された道は法的整理しかない。国策として原発政策を進めてきた政府の責任の下で、福島事故処理を進める必要がある。その際、国民的な議論なしに電気料金を税金のように利用することは許されない。

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    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト2月7日号の巻頭特集「電気代は税金となった」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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