青春小説の系譜

浮遊する「ぼく」の静かな青春 芥川賞「しんせかい」

鶴谷真・毎日新聞学芸部記者
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「しんせかい」で芥川賞を受賞した山下澄人さん(右)。左隣は直木賞の恩田陸さん=東京都千代田区で2017年1月19日、西本勝撮影
「しんせかい」で芥川賞を受賞した山下澄人さん(右)。左隣は直木賞の恩田陸さん=東京都千代田区で2017年1月19日、西本勝撮影

 先日選考会があった第156回芥川賞に輝いたのが、「王道の青春小説として面白い」とたたえられた、山下澄人さんの「しんせかい」だ。

 若い男が故郷の町を離れ、北国の山中で集団生活による苦難を味わい、女性との淡い交流もあり、2年後にそこを去るまでが描かれる。こう書けば、確かに青春小説の構えである。が、その味わいはこれまで本欄で紹介してきた作品と大きく違う。主人公の「内面の葛藤」と、その結果の「成長」がほとんど感じられないのだ。

 主人公は19歳のスミト。高校を卒業し、アルバイト生活の後、俳優と脚本家を育てる演劇塾に2期生として入る。塾は遠方の大自然の真っただ中にあり、自分たちが使う建物を造ったり、食費を稼ぐために農家を手伝ったりと、激しい肉体労働が課せられる。その合間に「先生」の演劇指導がある。

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鶴谷真

毎日新聞学芸部記者

1974年、神戸市出身。2002年毎日新聞社に入社し、岡山支局、京都支局を経て08年に大阪本社学芸部。13年秋から東京本社学芸部。文学を担当している。