
先日選考会があった第156回芥川賞に輝いたのが、「王道の青春小説として面白い」とたたえられた、山下澄人さんの「しんせかい」だ。
若い男が故郷の町を離れ、北国の山中で集団生活による苦難を味わい、女性との淡い交流もあり、2年後にそこを去るまでが描かれる。こう書けば、確かに青春小説の構えである。が、その味わいはこれまで本欄で紹介してきた作品と大きく違う。主人公の「内面の葛藤」と、その結果の「成長」がほとんど感じられないのだ。
主人公は19歳のスミト。高校を卒業し、アルバイト生活の後、俳優と脚本家を育てる演劇塾に2期生として入る。塾は遠方の大自然の真っただ中にあり、自分たちが使う建物を造ったり、食費を稼ぐために農家を手伝ったりと、激しい肉体労働が課せられる。その合間に「先生」の演劇指導がある。
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