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60代親世代が「住宅ローンは超怖い」と言う理由

櫻井幸雄・住宅ジャーナリスト

 このところ、住宅ローンで親と話がかみ合わなくて困る、という相談が増えた。30代でマイホームを買おうとする人たちが、その親(多くは60代)との間に意識の違いがあり、当惑している。

 簡単にいえば、トンチンカンなことを言われて参っているわけだ。

 意識の違いが生じるのは、住宅ローンに関して。今の60代が住宅ローンを借りたとき、ローン金利は今よりずっと高く、低いもので5.5%。6%や7%のローンもあった。これに対し、現在は、実質で1%を大きく割り込み、0.5%程度のものもある。10分の1以下に下がっているわけだ。

 その結果、次のような違いが生じる。

昭和時代の10分の1ローン金利で総返済額は

 60代親「住宅ローンを借りると、総返済額は元金の倍になる。3000万円のローンを組んだら、35年で6000万円を返すことになる」

 30代子供「今の金利なら、そんなにはらわなくていいんじゃないかな」

 実際、現在の金利水準で、変動金利が変わらないとすると,35年返済で総返済額は元金の1.1倍程度とされている。3000万円を借りたら、35年返済で3300万円程度を返すだけだ。金利負担は昭和時代と比べて格段に軽減されている。

 60代親「返済当初は毎月の返済金はほとんどが利子。元金の比率は1割にも満たない。10万円を返済した場合、9万円以上が利子。元金は数千円しか減らない」

 30代子供「今は、もっと元金比率は大きいと思うよ」

 現在、返済当初の元金比率は最高で約8割まで上がっている。10万円の返済で金利は2万円程度。元金返済分が約8万円となる。

 このように、具体的な数字を挙げると、低金利のメリットがよく分かる。しかし、30代だとそこまでの知識がない。

 高金利の時代に住宅ローンを借りた親世代は、「ローンは怖い」ことを、身をもって知っている。だから、子どもに「慎重になりなさい」と諭す。

 一方、子世代は、「今の金利水準は、史上最低といわれるほど低い」と知っているが、「そこまで親が言うからには、何か怖いことが隠れているのだろう」と思ってしまう。

金融緩和政策で住宅ローン金利は下がり続けている
金融緩和政策で住宅ローン金利は下がり続けている

住宅購入額の目安は年収の8~10倍に

 実際、「かつての高金利はどれだけひどいものだったか」に関しては、情報があふれている。しかし、「今の低金利がどれだけ有利か」の説明はほとんど見かけない。

 前述した現在の総返済額と返済額の元金比率も、「初めて知った」という人が多いのではないだろうか。

 以前、この連載で紹介した通り、超低金利の今、購入できる家の価格が年収の何倍までか、の目安も変わった。昭和時代は「年収の5倍まで」とされたが、現在は「年収の8倍から10倍まで」が現実的な目安だ。

 超低金利であることを考慮すると、昭和時代に3000万円台の住宅を買っていた人は、今、同じ返済額で5000万円台の住宅を買うことができる。

 このように今、住宅ローンは昭和時代より借りやすく、返しやすい。しかし、それを強調しすぎると、ローン破綻する人が増えるかもしれない。だから金融機関は積極的にアピールしないのだろう。

 しかし、今の住宅ローンの金利水準はそれくらい有利である。多くの人に知っておいてほしいと私は考えている。

 <「マンション・住宅最前線」は毎週木曜日の更新です>

住宅ジャーナリスト

1954年生まれ。年間200物件以上の物件取材を行い、首都圏だけでなく全国の住宅事情に精通する。現場取材に裏打ちされた正確な市況分析、わかりやすい解説、文章のおもしろさで定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞、日刊ゲンダイで連載コラムを持ち、週刊ダイヤモンドでも定期的に住宅記事を執筆。テレビ出演も多い。近著は「不動産の法則」(ダイヤモンド社)。