現代日本文学をリードし、多くの読者をもつ作家、小川洋子さんが初めて書いた長編小説が「シュガータイム」だ。1991年2月に刊行された。
女性主人公である「わたし」の、大学4年の春から秋にかけての物語である。もう少し言えば、夏の間に失恋する物語。まさに青春の終わりを告げる時期の色恋ざたとなれば、直球の青春小説という感じだが、どっこい、見たことのない変化球なのである。
まず、東京で1人暮らしをしている「わたし」を見舞う異常な食欲だ。「わたし」は今、食べても食べても満足を得られない状態に陥っている。ただし体重は増えず、精神的にも変わったところはない。そうなったきっかけの一つは、どうやら「わたし」の血のつながらない弟、航平の上京にあるらしい。
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