青春小説の系譜

不可逆の青春を優しく描く小川洋子「シュガータイム」

鶴谷真・毎日新聞学芸部記者
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東京六大学野球が行われる神宮球場
東京六大学野球が行われる神宮球場

 現代日本文学をリードし、多くの読者をもつ作家、小川洋子さんが初めて書いた長編小説が「シュガータイム」だ。1991年2月に刊行された。

 女性主人公である「わたし」の、大学4年の春から秋にかけての物語である。もう少し言えば、夏の間に失恋する物語。まさに青春の終わりを告げる時期の色恋ざたとなれば、直球の青春小説という感じだが、どっこい、見たことのない変化球なのである。

 まず、東京で1人暮らしをしている「わたし」を見舞う異常な食欲だ。「わたし」は今、食べても食べても満足を得られない状態に陥っている。ただし体重は増えず、精神的にも変わったところはない。そうなったきっかけの一つは、どうやら「わたし」の血のつながらない弟、航平の上京にあるらしい。

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鶴谷真

毎日新聞学芸部記者

1974年、神戸市出身。2002年毎日新聞社に入社し、岡山支局、京都支局を経て08年に大阪本社学芸部。13年秋から東京本社学芸部。文学を担当している。