多くのコンテナが並ぶ横浜港=宮間俊樹撮影
多くのコンテナが並ぶ横浜港=宮間俊樹撮影

政治・経済週刊エコノミスト・トップストーリー

「自由貿易は良いことなのか?」と世界が言い始めた

エコノミスト編集部

 トランプ米大統領が掲げる保護主義を中間層が支持する一方、自由貿易を是とする経済学者たちは反発している。週刊エコノミスト3月28日号の巻頭特集「良い貿易 悪い貿易」より報告する。

米製造業の雇用の4分の1が消えた

 「米中で貿易戦争が起きれば真っ先に被害に遭うのは米企業だ」。中国で3月15日に閉幕した全国人民代表大会後の会見で、李克強首相は、米国で高まる保護主義の動きをけん制した。

 トランプ米大統領は、昨年の選挙期間中から「自由貿易が米国の中間層を没落させた」と繰り返し主張し、とりわけ巨額の対米貿易黒字を計上する中国を名指しで批判してきた。

「アメリカ・ファースト」のトランプ米大統領は保護主義に傾く
「アメリカ・ファースト」のトランプ米大統領は保護主義に傾く

 中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年12月から現在までの約15年間で、米国では約15万カ所の工場が閉鎖された。毎年1万カ所ずつ消えていった計算だ。トランプ氏は「中国はアメリカ(市場)を強奪している」と非難する。トランプ氏を保護貿易に駆り立てる理由の一つだ。

 もう一つはトランプ政権が再交渉を求めている北米自由貿易協定(NAFTA)だ。協定が締結された1992年ごろまで、1700万人前後で安定推移していた米国の製造業労働者は、15年には1200万人程度まで減った。およそ4分の1の製造業雇用が失われたことになる。

新産業にすぐ雇用は移動できない

 自由貿易が米国の雇用を奪ったというトランプ氏の主張は、製造業労働者に受け入れられた一方で、経済学者たちの強い反発を買った。昨年の大統領選の直前に、米国の経済学者370人が連名で「トランプ氏の掲げる経済政策は支持できない」として同氏に投票しないよう米国民に呼びかける書簡を米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に寄せた。

 書簡は「米製造業の雇用の減少は70年代から始まっており、貿易ではなく自動化によるもの」と説明し、「NAFTA見直しは米国に悪影響を及ぼす」との批判を展開。米製造業を復活させ雇用拡大を目指すなら、中国よりも製造業のロボット化を問題視すべきだと主張した。

 「製造業を優先する」というトランプ氏に対し、経済学者らは「歴史を巻き戻して生産性の低い仕事を生み出すような政策は持続しない。重要なのは、新たに必要とされる産業に人々が就けるようにすることだ」と反発する。

 ただし、経済学者の多くは、そうした新しい市場に雇用が移動するまでは、20~30年はかかると見ていることも事実だ。しかも、IT(情報技術)や人工知能(AI)といった新産業は、多くの労働力を必要としない。雇用を生む新産業が現れるのか、経済学者も見通せない。その間、沈みゆく製造業のような産業に従事する者には、厳しい状況が続く。

新興国も保護貿易へ向かう

 世界貿易はトランプ大統領誕生の前から、保護主義に向かっていたことを示すデータがある。英シンクタンクの「グローバル・トレード・アラート」によれば、リーマン・ショック前に主要20カ国・地域(G20)全体で100件に満たなかった保護貿易措置が、ショック直後の08年11月から増加し、足元では6000件を超えている。措置の7割は新興国で取られている。

アメリカは製造業の空洞化に危機感を持つ(寂れたデトロイトの市街)
アメリカは製造業の空洞化に危機感を持つ(寂れたデトロイトの市街)

 保護措置の増加に合わせるように世界の貿易量の伸び率は減速し、世界経済成長の伸び率を下回る「スロートレード」の状態が続く。

 自由貿易と保護貿易とでは、どちらが得策か。自由貿易は18世紀の英経済学者リカード以来、多くの経済学者の支持を得てきたが、中間層の支持は急速に失いつつある。

 <次回「「2025年75歳以上4人に1人」介護崩壊は防げるか」>

  ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト3月28日号の特集「良い貿易 悪い貿易」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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<週刊エコノミスト3月28日号>

エコノミスト編集部

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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