介護・福祉政策を充実させるための改革は待ったなし
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「2025年75歳以上4人に1人」介護崩壊は防げるか

エコノミスト編集部

 超高齢化の日本で、安心して老後を過ごせるのか。2018年に介護・医療の報酬とサービス計画が同時に改定される。改革の方向性とは。週刊エコノミスト4月4日号の特集「まだ間に合う介護・医療」よりダイジェストで報告する。

2018年は介護・医療崩壊を防ぐラストチャンス

 介護や医療の社会保障費は、伸びが止まらない。一般会計の歳出総額の3分の1は社会保障費が占めている。一方、保険料収入は経済成長率と同程度のわずかな伸びにとどまっている。団塊の世代が75歳以上になり、国民の4人に1人が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて、日本の社会保障制度は今、岐路に立たされている。

 その中で、18年度は将来を占う非常に重要な年となる。介護サービスの提供者が受け取る「介護報酬」の改定(3年ごと)と、医療保険から医療機関に支払われる「診療報酬」の改定(2年ごと)が同時に行われるからだ。両方の報酬が同時に改定されるのは、6年に1度。それに加え、サービス内容を決める介護保険事業計画と医療計画が、初めて同時に改定される。それぞれの問題点を見据えて議論をする「最初で最後のチャンス」(介護関係者)と言える。

 厚生労働省は、12年から「地域包括ケアシステム」として、自治体が主体となって介護、医療、生活支援を連携させ、住み慣れた地域での福祉を充実させる構想を推し進めている。「かかりつけ医」の支援で、自宅や施設といった暮らしている場所を離れず、介護サービスを使いながら最期を迎えられる仕組みだ。介護と医療がより一体となった改革が求められる。

高額の介護報酬期待は「自立支援」と相反

 介護が抱える問題の一つは、要介護度が高いほど、利用できるサービスの限度額が大きく、施設側にとっては高額の介護報酬が期待できることだ。国際医療福祉大学大学院の武藤正樹教授は「介護保険制度の基本理念である『自立支援』と相反する」と指摘。リハビリなどを行い、改善や回復につなげた成果を評価して報酬に反映させるべきだと提案する。

日本の介護・医療の社会保障費は膨らみ続けている
日本の介護・医療の社会保障費は膨らみ続けている

 また、介護現場の慢性的な人手不足はますます深刻になることが確実だ。といっても介護報酬を大幅に増額するための予算確保は現実的でない。今でさえ財源不足を補うため、一定の所得がある人を対象に自己負担を引き上げている。

 そんななか、要介護者の自立支援と、介護職員の人手不足という難問を同時に解決した例がある。

 奈良県大和郡山市の特別養護老人ホーム(特養)「あすなら苑」は、12年から24時間対応の訪問介護を始めた。訪問する職員は、介護福祉士や理学療法士など、介護と医療の専門家だ。要介護者の「オムツゼロ、機械浴ゼロ、車椅子生活ゼロ」を目標に掲げ、トイレに付き添ったり、食事を机で椅子に座って食べるよう支援したりしている。リハビリの効果は顕著で、多くの要介護者に改善が見られた。

 「要介護者の回復」という成果は、職員の意欲向上にもつながった。それだけでなく、要介護者が日常生活で自分でできることが増えれば、職員の負担軽減に直結する。特に介護職員の早朝と夜間の訪問介護が減少した。

ますます広がる自治体間の格差

 地域包括ケアの主体となる自治体も独自に動いている。東京都品川区は13年度から、施設サービスの評価や向上に取り組む研究会に加入する施設を対象に、入所者の要介護度が1段階改善されるごとに月2万円の奨励金を最大12カ月、支給する事業を行っている。15年度は98施設に計1400万円を交付した。

 国の地域包括ケア推進により、自治体の役割は高まる一方だ。利用者のニーズをもとに介護と医療が連携することで、より利用者に寄り添ったサービス提供が可能になるはずだ。今後は、取り組んでいる自治体とそうでない自治体のサービス格差はますます広がっていくだろう。

 <次回「自治体の固定資産税評価は本当に適正なのか」>

    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト4月4日号の特集「まだ間に合う介護・医療」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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