貧困クライシス出版記念トークライブで語る藤田さん=東京都千代田区で2017年3月30日、高橋勝視撮影
貧困クライシス出版記念トークライブで語る藤田さん=東京都千代田区で2017年3月30日、高橋勝視撮影

くらし下流化ニッポンの処方箋

「嫌いな人を助けられるかどうか」が社会の質を決める

藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

貧困クライシス・トークライブ(2)

 「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版、972円)著者でソーシャルワーカー・藤田孝典さんの出版記念トークライブ(3月30日)2回目は、誰もが持っている不安をどう解消するか、です。藤田さんは「一生懸命がんばっている人への支援」と「生活関連5分野の脱商品化」を挙げました。脱商品化とはいったい何でしょうか。【経済プレミア編集部・戸嶋誠司】

年々強まる弱者への攻撃と抑圧

 編集部 会場のみなさんも不安を感じていると思います。周囲にたとえば派遣の友人がいるとか、親戚のお子さんが就職できなかったとか、子供が契約社員のままだとか、そういう方もいらっしゃると思います。

 藤田 貧困が自分と無縁ではないことに、みなさんもう気づいていると思います。家族や親戚を見渡してみて、貧困とは言わないまでも困っている人、いずれ困りそうな人はいるんじゃないでしょうか。ですから、その人たちを特別な存在と見るのではなく、構造的な問題ととらえてほしいのです。

 編集部 昨年8月、1000円ランチの女子高生を多くの人がSNSでたたき、非難しました。なぜ、彼女は1000円ランチでここまで非難されたんでしょうか。

 ◆私たちのNPOは十数年にわたって生活困窮者支援をしていますが、今、劇的に社会が変わりつつあると感じています。貧困バッシングと生活保護バッシングの増加です。

 私が活動を始めた学生時代は、例えばホームレスの人たちに対して「怠けている」という非難の視線はありましたが、今回のように女子高生が困窮を訴えただけでたたかれる現象は考えられませんでした。今、急速に、しかも全体的に、貧困状態に陥っている人たちをたたく、清貧でなければ攻撃する、という傾向が強まっています。

 背景には、社会全体の不安があり、生活が苦しい人が増え、全体的にゆとりがなくなってきていることがあると思います。また、貧困や困窮に対する支援(の財源)が税金である、という事情もあります。

 税金を払う側からすれば、自分の生活が苦しいのに、自分が払った税金が特定の人を助けるためだけに使われることへの不満があります。ゆとりがなくなり始めていますから、その人に出すなら自分に返してくれよ、と考えてしまうのです。

 また、税金で救うのなら、その相手は清貧でいるべきだ、真面目に暮らしてくれよ、と思う心理があります。価値観を押しつけてしまうんですね。生活保護受給者に対しては酒を飲まず、ギャンブルをせず、清貧に暮らせと求めます。

 最近では、映画に行く、あるいは友人と食事をすることへの抑圧もあります。そんな傾向が強まっている。私は、急速に社会が苦しくなりつつあることの表れではないかと思っています。

困っている人を無条件に助けるのが共同体の役割

 編集部 貧困や生活保護バッシングの時に目立ったのが、「本当に困っている人なら助けてもいい」という視線でした。「1000円ランチを食べる女子高生は、本当は困っていないだろう」という価値観が反映されています。しかし「本当に」ってどんな基準なのでしょうか。

 ◆価値観は人それぞれです。この活動に関わっていると、救済したい人と救済したくない人が必ず出てきます。みなさんにも「この人は助けたいな」とか、「この人は助けたくないな」という方いませんか? 性格悪くてわがままな人は、助けたくありませんよね(笑い)。

 世間にはいろいろな人がいて、私たちが手を差し伸べてあげたいなと思う人はやはり清貧で、真面目で、努力が報われなくてかわいそう、というイメージがあります。人間はどうしても、救済に値する人と救済に値しない人を選別してしまいます。

 資本主義が始まって400年間、ずっとこの議論が続いています。近代になってようやく少しずつ、救済するかしないかで選ばず、どんな人であってもまず必要最低限の生活を支援しようよ、という考え方に変わってきました。社会保障とはまさにそのような仕組みです。

 しかし、どうしても制度に感情が追いつかないから、支援したくない人を無意識に排除しちゃう。これは人間への究極的な問いです。

 「みなさんが嫌いな人を救えるかどうか、嫌だと思う人を救えるかどうか」

 このことが改めて社会に問われているんじゃないでしょうか。どんな状況であっても、必要最低限のラインで線を引き、手を差し伸べる社会にする必要がある。だから「本当に困っている人」も「真に救済すべき人」も、「優先的に支援すべき人」もいなくて、困っているという声が上がったら、まず何に困っているかを聞き出し、サポートするのがあるべき社会の姿だと思っています。

「脱商品化」で社会の仕組みを変えてみる

 編集部 貧困バッシングをする人の中には、支援を受けないでがんばっている人も多いようですね。

 ◆例えば、時給800~900円の最低賃金レベルで長時間、ダブルワークやトリプルワークで働いているシングルマザーがたくさんいますが、彼女たちからすると、生活保護を受けている人は何もせずにお金をもらっているように見えるでしょう。自分自身にゆとりがないゆえに、「働けるのに働いていない」と、人を責めてしまう状況があります。「生活保護は甘えを助長する」と言う人もいます。

 ですから、がんばりすぎている人を美談として取り上げるのではなく、掛け持ちで働き、一生懸命努力してもかつかつの暮らしから抜け出せない状況を、楽にしないといけません。そのような人たちへの支援が必要だと強く思います。

 <会場から>世代や性差、心の余裕の有無などいろいろな貧困ケースが出てきました。個別の対策は必要だとして、ここを押すと、いろんなことにいっぺんに効くというポイントを探し、働きかけることが重要じゃないかと思って聞いていました。どんなポイントが考えられますか。

 ◆貧困対策や、暮らしへの不安を解消するためにはまず、市民が「社会は変えられる」という意識を持つことが重要です。そして、実際に仕組みを変えていく。そのアイデアの一つが「脱商品化」の構想です。

 ※脱商品化=デンマーク出身の社会学者エスピン・アンデルセンが、福祉国家の類型を論じる際に使った概念。国民が労働や生産に携わらなくても最低限の生活を送れる度合いを示す。ここでは、生活分野の必需品を社会が備え、お金を払わなくても国民が基本サービスを受けられる状態を指している。

貧困バッシングに抗議する新宿デモ=2016年8月27日
貧困バッシングに抗議する新宿デモ=2016年8月27日

 社会システム、つまり仕組みを変えるポイントは五つあると思っています。▽医療▽介護▽保育▽教育▽住宅--の5分野です。0歳から100歳まで、みんなが使うもの、使う割合が高いものを無償か安く使えるものにすれば、暮らしはもう少し楽になります。負担を減らせれば生存をかけてまで働く必要はなく、生活不安も減らせます。たくさん貯金しなくても安心なのです。

 一つの取り組みとして、低所得世帯の大学生を対象にした返還不要の給付型奨学金制度が近く導入されます。また、空き家を活用した住宅政策も取り入れられつつあります。子供を産むのが難しい国で、保育料も無償にした方がいいんじゃないかと思いますし、実際そうやって他のヨーロッパ諸国は成果を上げています。

 そもそも、貯蓄をしなくてもすむ社会に変われば、お金が消費に回って経済も回ります。この5分野にどうやって税を優先配分するか。社会的コンセンサスを作りたいと思っています。

 <次回「他者を“無価値”と切り捨てる社会はどこに向かうのか」>

藤田孝典さんの新著「貧困クライシス」好評発売中

 藤田孝典さんの連載「下流化ニッポンの処方箋」をまとめた「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(藤田孝典著、毎日新聞出版、972円)が好評発売中です。相対的貧困率が16%に達したニッポンの現状を細かな事例とデータで検証しています。全国の書店、アマゾンでお買い求めいただけます。

下流化ニッポンの処方箋

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藤田孝典

藤田孝典

NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版)「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。

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