マネー・金融ニッポン金融ウラの裏

森金融庁長官が激しく批判した「金融系列」の問題点

浪川攻 / 金融ジャーナリスト

 証券商品の販売のあり方が問われ続けている。金融庁は「フィデューシャリーデューティー」という言葉を使って顧客本位の業務運営の徹底を証券会社や銀行に強く求めている。だが、現実は理想とは遠いと言わざるを得ない。その背景の一つはやはり、販売会社と運用会社の系列関係だ。

 4月7日、日本証券アナリスト協会主催のセミナーが東京都内で開催され、森信親・金融庁長官が基調講演を行った。森長官は激しい口調でこう論じた。

 「運用会社の社長が運用知識・経験に関係なく親会社の販売会社から歴代送り込まれたり、ポートフォリオ・マネジャー(運用責任者)が運用者である前に○○金融グループの社員であるという意識が強く、運用成績を上げるよりも定年までいかに間違いをせずに無事に勤め上げるかが優先されたりしていないか」

金融庁=2014年6月、根岸基弘撮影
金融庁=2014年6月、根岸基弘撮影

 同長官の口調には、これまでも繰り返し指摘してきたことが一向に実現されないことへの怒りがにじむ。いつまでたっても運用会社が販売会社の子会社という形態が続いている。そして、経営陣の顔ぶれをみても、実質的に親会社の影響力が絶大な状況が継続しているからだ。

 もちろん、民間の金融グループの役員人事に金融庁が介入することは許されることではない。だが、「濃密な親会社・子会社の関係が、顧客本位の業務運営を阻害している」という金融庁の考え方に応えた動きが希薄な実態に、強いいら立ちを隠せなかったのだろう。

独立系運用会社は「小骨のような存在」

 わが国にとって不幸なことは、系列構造のビジネススタイルに対抗するような別のビジネススタイルが育ってこなかったという現実である。高い評価を得ている独立系の運用会社はないわけではないが、金融ビジネスの背骨のようになっている系列構造に比べると、小骨のような存在でしかない。

 しかも、資産運用のノウハウを蓄積するには相当の経験年数を要することを考えると、仮に今後、独立系運用会社が増える動きになっても、銀行や証券系列の運用会社に対抗するようになるのはかなり先の話である。

 逆に、大手金融グループでは系列運用会社の経営統合が進んで巨大化している。巨大化はシステム投資の効率化につながる一方で、人事的に親会社のグリップが強まる傾向にある。

人事異動も親会社の体系の中で

 ある運用会社生え抜きの幹部は「親会社から人材が送り込まれる場合、転籍ではなく、出向にするケースが増えている」と嘆く。親会社の人事体系の中で異動が行われているというわけだ。これでは顧客のほうを見るどころではない。前述の講演で森長官も「これまでのやり方を続けていては、日本の資産運用業は衰退していくだけではないか」という痛烈な言葉を投げかけている。

 わが国では金融・証券業の多様化が大手金融の系列方式で進展してきた。そこに、過去の金融行政が深くかかわっていた。しかし、それがあまりにも長すぎて、さまざまな面で硬直化を感じる。それを変えていくようなショック療法はあるのだろうか。次回以降、この問題を掘り下げてみたい。

    ◇    ◇

 金融業界を30年余にわたり取材してきた金融ジャーナリスト、浪川攻さんが「ここだけの話」をつづります。「ニッポン金融ウラの裏」は、原則として週1回の掲載です。

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浪川攻

浪川攻

金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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