ベストセラーを歩く

又吉直樹の小説第2作「劇場」をめぐる三つの疑問

重里徹也・文芸評論家、聖徳大教授
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 日本文学はこれまでにあまたの恋愛小説を生み出してきた。それらは同時代の人々の思いに形を与えてきた。恋愛は人々が心の底で求めているものをあらわにするからだ。よく売れる恋愛小説なら、なおさら。

 それでは、ベストセラーになっている又吉直樹の小説第2作「劇場」(新潮社)が浮き彫りにしている日本人の心のありようとはどのようなものなのだろうか。

 この小説で恋愛に陥るのは、大阪出身の売れない演劇人(脚本を書いて演出をする)と、青森出身の女子大生。男は生活力のないダメ男で、ピュアな女のヒモのような存在になって寄生する。女は精神的に参ってしまい、故郷に帰る。2人の出会いから別れまでを達者な筆で描いている。

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重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。