切ない歌を探して

イーストウッドが描く男の人生と孤独「グラン・トリノ」

森村潘・ジャーナリスト
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映画「グラン・トリノ」(c)2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
映画「グラン・トリノ」(c)2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

 家族や恋人同士の愛情物語でもなければ、英雄譚(たん)でもないし、戦争や死や極端な状況下の悲話でもない。だが、静かな感動を呼ぶ。クリント・イーストウッドが主演、監督した「グラン・トリノ(Gran Torino)」(2008年)は、そういう映画だった。

 この映画を撮った(演じた)とき彼は78歳で、これが最後の主演・監督作品になるのではないかと言われた。そして上映後は、「~たとえ老いても、一匹狼(おおかみ)の男をヒーローとして賛美するという、映画作家として追い求めてきたテーマの集大成」(注)と評価された。

 主人公のコワルスキーは、かつて朝鮮戦争に従軍し、長い間フォード社の生産現場で働いてきた。妻に先立たれ、1人でデトロイトの近くで暮らしている。親を気遣うようなふりをして、自分の利益を考えるような子供たち家族とはそりがあわず、近隣とのつきあいもほとんどない。気難しく排他的なところがあり、信仰にも否定的だ。

 あるとき、自宅隣にアジア系モン族の一家が引っ越してくる。彼らを忌避していたコワルスキーだが、同じモン族の不良に絡まれているこの家の少年の面倒をみることになったことから、最後は身を挺して不良たちに立ち向かい、倒れる。戦争のトラウマを抱え、重い病を抱えていたコワルスキーが、自分の生き方をまっとうすると同時に、過ちを償うような最期だった。

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森村潘

ジャーナリスト

大手新聞、雑誌編集などを経てコミュニティー紙の編集などに携わる。ジャンルを超えて音楽を研究、アメリカ文化にも詳しい。