
病気の自覚がなかったり、症状が慢性化したりしているのに医療につながりにくい精神疾患患者を抱えて苦しむ家族がいます。危機的な家庭からのSOSを受け、本人を説得して医療機関へとつなげてきた押川剛さんとともに、家庭内や地域でどのように対処すればよいかを探る連載2回目をお届けします。
20代半ばで「統合失調症」と診断
今回は北陸地方に住む50代のA男さんと、同居する70代の母親のケースである。家族へのヒアリングと視察調査で状況を把握した。2年前に他界した父親は公務員を勤め上げた真面目できちょうめんな人で、母親は長く専業主婦として家庭内を切り盛りしていた。A男さんには姉のB子さんがいるが、結婚を機に関西地方で暮らし、実家から足が遠のいていた。
A男さんは大学入学と同時に都内で1人暮らしを始め、卒業後は食品メーカーに就職した。しかし数年後、A男さんのマンションの管理人から両親に連絡が入った。A男さんが半年近く家賃を滞納し、部屋を訪ねても反応がない。ベランダにはゴミがたまり、近隣住民から苦情が出ているという。
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(株)トキワ精神保健事務所所長
1968年北九州市生まれ。専修大学中退。92年、神奈川県でトキワ警備=現・(株)トキワ精神保健事務所(東京都新宿区)=を創業。96年から精神障害者移送サービスに業務を集中。強制拘束ではない、対話と説得で患者を医療につなげるスタイルを確立し、1000人超の患者を移送してきた。移送後も面会などを通じて自立・就労支援に携わり、その様子はドキュメンタリーとして多数放映された。ジャーナリスト・ノンフィクション作家としても活動。「『子供を殺してください』という親たち」「子供の死を祈る親たち」(新潮社)などの著書がある。現在、月刊コミック@バンチ(新潮社)で原作のノンフィクション漫画を連載中。